【応用】指数関数の発散速度
ここでは、 $e^x$ と $x^n$ と $\log x$ に関する極限について考えていきます。 $x\to \infty$ としたときの発散スピードについて見ていきます。
指数関数とxとの比較
分母も分子も無限大に発散するので、工夫をして計算していかなくてはいけません。
ただ、【応用】数列の極限(二項定理)で見たように、数列の場合は\[ \lim_{n\to \infty} \frac{n}{2^n}=0 \]が成り立つことを示していました。このことから、「指数関数の方が多項式関数よりも早く発散するのではないか」と予想できます。これを踏まえて考えていきましょう。
上のリンクにある数列の場合には、二項定理を用いて考えました。 $n$ と $2^n$ とを比較するには、二項定理を使って $2^n$ の方から $n$ を含む式をひねりだしてくると、うまくいくのでしたね。今の場合も、二項定理を利用することを考えましょう。
自然対数の底 $e$ の値は、【基本】自然対数で見た通り、だいたい $2.7$ 程度です。$e$ の値が $2.7$ 程度であることは覚えておいた方がいいでしょう。このことから、まず、次の不等式が成り立ちます。\[ \frac{x}{e^x} \lt \frac{x}{2^x} \]$e$ のままだと考えにくいので、 $2$ で考えていきましょう。
また、 $2^x$ の大きさについて考えたいのですが、 $x$ が自然数でないと二項定理が使えません。そのため、ガウス記号(参考:【標準】整数部分と小数部分)を用いて、無理やり自然数になるようにしましょう。\[ \frac{x}{2^x} \lt \frac{[x]+1}{2^{[x]} } \]分子は、より大きく、分母は、より小さくなりました。
分母を二項定理によって展開してみましょう。 $x\to \infty$ とするので、 $x$ は2以上とします。
\begin{eqnarray}
2^{[x]}
&=&
(1+1)^{[x]} \\[5pt]
&=&
1+[x]+\frac{1}{2}[x]([x]-1)+\cdots \\[5pt]
&\geqq&
1+[x]+\frac{1}{2}[x]([x]-1) \\[5pt]
&\geqq&
\frac{1}{2}[x]^2 \\[5pt]
\end{eqnarray}となります。これより、
\begin{eqnarray}
\frac{[x]+1}{2^{[x]} }
&\leqq&
\frac{[x]+1}{\frac{1}{2}[x]^2} \\[5pt]
&\leqq&
2\cdot \frac{1+\frac{1}{[x]} }{[x]} \\[5pt]
\end{eqnarray}となります。また、 $\dfrac{x}{e^x}$ は正だから、\[ 0\lt \frac{x}{e^x}\lt 2\cdot \frac{1+\frac{1}{[x]} }{[x]} \]であり、 $x\to \infty$ のときに右辺は $0$ に収束するので、\[ \lim_{x\to \infty} \frac{x}{e^x}=0 \]となります。
指数関数とn乗の比較
分母も分子も無限大に発散するので、工夫をして計算していかなくてはいけません。が、先ほどの結果を利用することを考えましょう。
\begin{eqnarray}
\frac{x^n}{e^x}
&=&
\left(\frac{x}{e^{\frac{x}{n} }}\right)^n
\end{eqnarray}となります。ここで、 $t=\dfrac{x}{n}$ とおくと、 $x\to \infty$ のとき $t\to\infty$ なので、
\begin{eqnarray}
\lim_{x\to \infty} \frac{x^n}{e^x}
&=&
\lim_{x\to \infty} \left(\frac{x}{e^{\frac{x}{n} }}\right)^n \\[5pt]
&=&
\lim_{t\to \infty} \left(\frac{nt}{e^t}\right)^n \\[5pt]
&=&
\lim_{t\to \infty} n^n \cdot \left(\frac{t}{e^t}\right)^n \\[5pt]
\end{eqnarray}ここで、先ほどの例題から、カッコの中は $0$ に収束することがわかります。他の $n$ の部分はすべて有限の値なので、この極限は $0$ となることがわかります。よって、\[ \lim_{x\to \infty} \frac{x^n}{e^x}=0 \]となります。
対数関数とxとの比較
先ほどの例題を利用して求めましょう。
$t=\log x$ とすると、 $x=e^t$ です。また、 $x\to \infty$ のとき $t\to\infty$ なので、
\begin{eqnarray}
\lim_{x\to \infty} \frac{x}{(\log x)^n}
&=&
\lim_{t\to \infty} \frac{e^t}{t^n} \\[5pt]
\end{eqnarray}と変形できます。例題2から、 $\dfrac{t^n}{e^t}$ は正の値をとりながら $0$ に近づいていくことがわかるので、この逆数は正の無限大に発散することがわかります。よって、\[ \lim_{x\to \infty} \frac{x}{(\log x)^n}=\infty \]となります。
まとめ
ここでは、指数関数、多項式関数、対数関数に関する極限の問題を考えました。 $x\to \infty$ としたときに無限大に発散していくスピードは、速い方から、指数関数、多項式関数、対数関数となります。それを表す式が、次に示す、例題の内容をまとめたものになります。(一部、分母・分子を入れ替えています)
\begin{eqnarray} & & \lim_{x\to \infty} \frac{e^x}{x^n} =\infty \\[5pt] & & \lim_{x\to \infty} \frac{x}{(\log x)^n} =\infty \\[5pt] \end{eqnarray}
$n$ は2でも3でも1億でも自然数なら何でもいいので、指数関数の発散スピードが速いことがわかるでしょう。日常生活でも「指数関数的に~」という言葉が使われることがありますが、この言葉によって、発散するスピードがすごく速いことが表現されています。