【応用】微分を用いた不等式の証明
ここでは、不等式を証明するときに、微分を利用する問題を見ていきます。
単調増加と不等式
微分可能な関数 $f(x)$ の増減を調べるには、 $f'(x)$ の符号を調べます。例えば、 $x\gt a$ のときに $f'(x)\gt 0$ が成り立つなら、 $x\geqq a$ の範囲で $f(x)$ は単調増加となるのでした。
この場合、特に、 $x\geqq a$ の範囲では\[ f(x)\gt f(a) \]が成り立つことがわかります。このことを利用して、不等式の証明を行う場合があります。
以下の例題で見てみましょう。
微分を用いた不等式の証明
左辺と右辺の形が違うため、両辺を変形して不等式を示す、という方針は難しそうです。こういう場合に、微分を利用できる場合があります。
左辺と右辺の両方に文字が入っていると考えにくいので、\[ f(x)=e^x-1-x-\frac{x^2}{2} \]とおいて考えましょう。 $f(x)\gt 0$ を示せばいいということですね。
$f(0)=0$ なので、 $f(x)$ が単調増加ならば、 $f(x)$ はつねに正であることがわかります。そうなっているか確かめるために、微分してみましょう。
\begin{eqnarray}
f'(x)
&=&
e^x-1-x
\end{eqnarray}こうなります。これが今考えている範囲でプラスだったら、単調増加であることがわかりますが、今の場合、これがプラスであることは、すぐにはわかりません。
「なら、微分を使う方法はダメか…」とあきらめるのはまだ早いです。もう一度微分してみましょう。
\begin{eqnarray}
f^{\prime\prime}(x)
&=&
e^x-1
\end{eqnarray}となります。これなら、 $x\gt 0$ の範囲で $f^{\prime\prime}(x)\gt 0$ であることがわかります。つまり、 $x\geqq 0$ の範囲で、 $f'(x)$ は単調増加であることがわかります。
ただ、単調増加でも、正の値になっているとは限りません。今のケースであれば、範囲の左端に注目すればいいですね。
\begin{eqnarray}
f'(0)=e^0-1-0=0
\end{eqnarray}であり、 $x\geqq 0$ の範囲で単調増加であるから、 $x\gt 0$ の範囲では $f'(x)\gt f'(0)=0$ であることがわかります。つまり、 $f'(x)$ は正です。
$f'(x)\gt 0$ なのだから、 $x\gt 0$ の範囲で $f(x)$ は単調増加であることがわかります。 $f(0)=0$ なので、 $x\gt 0$ の範囲では、\[ f(x)\gt f(0)=0 \]となることがわかります。
以上から、 $x\gt 0$ の場合は、 $f(x)\gt 0$ 、つまり、\[ e^x\gt 1+x+\dfrac{x^2}{2} \]が成り立つことがわかります。
指数関数と多項式関数の不等式と発散スピード
上の例題から、指数関数と多項式関数の発散スピードについてわかることがあるので、紹介しておきましょう。
$e^x$ は何度微分しても $e^x$ です。なので、上と同じ議論をすることで、 $x\gt 0$ のときには\[ e^x\gt 1+x+\dfrac{1}{2}x^2+\dfrac{1}{6}x^3+\cdots\dfrac{1}{n!}x^n \]となることがわかります( $n$ は自然数)。証明の仕方は、微分して $x\gt 0$ の範囲でその関数が正となることを示していく、という内容です。
このことから、両辺を $x^{n-1}$ で割ると、\[ \dfrac{e^x}{x^{n-1} }\gt \dfrac{1}{n!}x \]となることがわかり、 $x\to \infty$ のときに、右辺が正の無限大に発散するので、右辺も正の無限大に発散することがわかります。
$n$ は自然数なら何でもいいので、結局、\[ \lim_{x\to \infty} \dfrac{e^x}{x^n}=\infty \]となることがわかります。このようにしても、指数関数は多項式関数よりも発散するスピードがはやいことがわかります。(参考:【応用】指数関数の発散速度)
おわりに
ここでは、指数関数と多項式関数の不等式を用いて、不等式の証明に微分を用いる方法を見てきました。
「関数の微分が正ならば単調増加である」ことから、「ある区間で、関数の微分が正なら、その区間での関数の値は左端での値より大きい」ことがわかるので、このことを不等式の証明に利用しています。
$x\gt 0$ のときに $f(x)\gt 0$ を示したい場合は、この範囲で $f'(x)\gt 0$ が成り立つということだけでなく、 $f(0)$ の値についても考えないといけない点に注意しましょう。