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整数の減法

整数の加法の性質で逆元について見たので、ここでは、整数の減法の定義を行っていきましょう。また、逆元や減法の性質についても見ていきます。

📘 目次

整数の加法の復習

繰り返しになりますが、整数の加法の性質までに見た整数の定義や整数の加法の性質について、内容を少し振り返っておきます。

自然数 $a,b$ を使って、自然数のペア $(a,b)$ を考えます。このとき、次のような集合を考えます。

 $[(a,b)] = \{(c,d)\mid a+d=c+b\}$

これは、整数を $a-b$ で表そうというアイデアに基づいています。 $a-b=c-d$ なら、「 $(a,b)$ と $(c,d)$ は同じ整数を表す」と考え、各 $[(a,b)]$ を整数と呼ぶのでした。

整数の一部と自然数を同一視することも見てきました。自然数 $a,b$ に対して、ある自然数 $n$ を使って $a=b+n$ と書けるとき、 $[(a,b)]$ は $n$ と同一視できるので、 $n$ と表します。特に、 $n\ne 0$ のときは、 $[(a,b)]$ を正の整数と呼びます。 $a=b$ のときは、 $[(a,b)]$ は $0$ です。

$0$ でないある自然数 $n$ を使って $a+n=b$ と書けるときは、 $[(a,b)]$ を負の整数と呼びます。

また、2つの整数 $[(a,b)]$ と $[(c,d)]$ との和は、\[ [(a+c,b+d)] \]で定義しました。こうすれば、代表元によらずに定義することができるのでした(参考:整数の加法の定義)。

$z$ を整数とすると、2つの自然数 $a,b$ を使って、 $[(a,b)]$ と表すことができます。これに対し、 $[(b,a)]$ を考えると、和が $[(0,0)]$ 、つまり、 $0$ になります。

このように、 $z$ との和が $0$ になるものを $z$ の逆元といいます。各整数 $z$ について、逆元は必ず存在し、しかも1つだけ存在します。 $z$ の逆元は $-z$ で表します。

ここまでが、整数や整数の加法の復習です。

整数の減法

整数 $z$ に対して、逆元 $-z$ が考えられるようになったのだから、整数の減法は、高校までに学んだ内容を踏まえれば、次のように定義するのが自然でしょう。

整数の減法
2つの整数 $x,y$ について、 $x-y$ を $x+(-y)$ と定める。この演算を、整数の減法といい、計算結果を差という。

例えば、 $5-2$ なら、 $5+(-2)$ のことだ、というわけです。後者は整数同士の和なので、すでに定義したものです。

これを、大げさに計算してみましょう。 $[(a,b)]$ が $5$ を表しているとします。このとき、 $[(a,b)]$ は $[(5,0)]$ と同一視できるので、\[ a+0=b+5 \]が成り立っています。また、 $[(c,d)]$ が $2$ を表しているとすると、同様に\[ c+0=d+2 \]が成り立っています。 $-2$ とはこの逆元であり、 $[(d,c)]$ と表せます。以上から、
\begin{eqnarray} 5-2 &=& 5+(-2) \\[5pt] &=& [(a,b)]+[(d,c)] \\[5pt] &=& [(a+d,b+c)] \\[5pt] &=& [((b+5)+d,b+(d+2))] \\[5pt] \end{eqnarray}となります。ここで、\[ (b+5+d)+0=3+(b+d+2) \]なので、この値は $[(3,0)]$ と等しいため、 $3$ だとわかります。

さすがにこれは大げさすぎます。もう少し、整数の加法の性質を使うなら、次のように計算できます。

まず、 $5=3+2$ が成り立つので、 $5-2$ は $(3+2)+(-2)$ と変形できます。 $-2$ が $2$ の逆元であること(和が $0$ になること)と結合法則から、この値は $3$ と求められます。よって、\[ 5-2=3 \]と計算できます。これくらいなら、現実的な計算量でしょう。

このことからも想像できる通り、このように定義した整数の減法は、今までに扱ってきた減法と同じ演算になります。しかし、小学校のときにやったような、「みかんが5個あって2個食べたら残りは何個?」という世界からは大きくかけ離れてしまったように感じますね。


小学校から中学にかけては、次のようなステップで話が進んでいきました。

 数(自然数)の導入
 ⇒ 自然数の足し算・引き算を導入
 ⇒ 引き算が自由にできるように、数の世界を整数へ拡張

しかし、大学以降の数学では、ここまで見てきたように、次のようなステップで進むことが多いです。

 自然数の導入
 ⇒ 自然数の足し算を導入
 ⇒ 数の世界を整数へ拡張
 ⇒ 逆元の存在を確認
 ⇒ 逆元との和として引き算を導入

経路は違うものの、足し算や引き算の計算結果はもちろん同じになります。

逆元の性質

引き算を定義したので、これからは自由に引き算も行えます。ただ、新しい定義でも、今までと同じような計算ができるかどうかは、確認しておく必要があります

先ほども見たように、 $5-2$ なら、\[ (3+2)+(-2)=3+(2-2)=3 \]と計算すれば、今までに行ってきた定義や見てきた性質のみを扱っています(結合法則、逆元の定義など)。

では、 $2-5$ ならどうでしょうか。 $5-(-2)$ なら? $(-2)-5$ なら? こうした計算ができるように、逆元の性質をいくつか見ておきましょう。

逆元の逆元
整数 $z$ について、 $-(-z)=z$ が成り立つ。

左辺の $-(-z)$ とは、 $-z$ の逆元、ということです。これは、 $(-z)+x=x+(-z)=0$ を満たす整数 $x$ のことです。

ただ、 $x=z$ とすると、 $(-z)+z$ も $z+(-z)$ も $0$ です。 $-z$ は $z$ の逆元だからです。

ということで、 $-(-z)=z$ となります。逆元は1つしか存在しないので、 $-z$ の逆元が $z$ ならば $-(-z)=z$ が言える、というわけです。

ややこしいですが、逆元の定義をそのまま使っているだけです。


和の逆元
整数 $p, q$ について、 $-(p+q)=(-p)+(-q)$ が成り立つ。

左辺の $-(p+q)$ とは、 $p+q$ の逆元ということです。ここで
\begin{eqnarray} & & (p+q)+\{(-p)+(-q)\} \\[5pt] &=& p+(-p)+q+(-q) \\[5pt] &=& 0 \end{eqnarray}であり、 $\{(-p)+(-q)\}+(p+q)=0$ も成り立つので、 $p+q$ の逆元は、 $(-p)+(-q)$ になります。つまり、\[ -(p+q)=(-p)+(-q) \]が成り立ちます。


これらを踏まえて、先ほどの計算をしてみましょう。 $2-5$ ならば、

 $2-5$
 $=2+(-5)$ (減法の定義)
 $=2+\{-(2+3)\}$
 $=2+\{(-2)+(-3)\}$ (和の逆元)
 $=\{2+(-2)\}+(-3)$ (和の結合法則)
 $=0+(-3)$ (逆元の定義)
 $=-3$ (ゼロの性質)

となります。また、 $5-(-2)$ は

 $5-(-2)$
 $=5+\{-(-2)\}$ (減法の定義)
 $=5+2$ (逆元の逆元)
 $=7$

となり、 $(-2)-5$ なら

 $(-2)-5$
 $=(-2)+(-5)$ (減法の定義)
 $=-(2+5)$ (和の逆元を逆に使う)
 $=-7$

となります。

ここまで定義したいろいろなものを利用すれば、他の計算もできるでしょう。


高校までは、経験や直感的な説明が多かったと思います。例えば、和の逆元で見た式を授業でやるなら、「 $p+q$ 円を払う場合と、 $p$ 円を払った後に $q$ 円を払う場合では、お金の減る額が同じ」みたいに説明されるかもしれません。

しかし、逆元の逆元になると、説明しづらいでしょう。直感的な説明をするのはなかなか難しいです(例えば、今日の最高気温が $20$ 度で、前日比 $-2$ 度のとき、昨日の最高気温は $20-(-2)$ と表せるが、意味を考えるとこれは $22$ 度になる、などという説明があるかもしれません。当サイトでは、実際にそう説明しています。参考:【導入】気温と負の数の引き算)。

一方、大学以降の数学では、定義を厳密にやっていくので、直感的に理解できるかどうかは関係なくて、定義から導けるかどうかが大事になってきます。

逆にいうと、定義は自然なものであるべき、と言えるでしょう。定義が受け入れられるから、それから導ける結果を(直感的に理解できない・直感に反することであっても)受け入れられる、と考えられるためです。

なお、ここで出てきている「マイナス」には、「 $-1$ を掛ける」という意味はありません。 $z$ との和が $0$ になるものを $-z$ と表しているだけです。

例えば、 $-(-z)=z$ は「マイナス×マイナスが正」という意味ではありませんし、 $-(p+q)=(-p)+(-q)$ は分配法則を表しているわけではありません。

今の時点では、マイナスは単に逆元を表しているだけ、という点に注意しましょう。

負の整数

自然数の整数への埋め込みで見た内容をもう一度取り上げます。

自然数 $a,b$ に対しては、

 (1-1) $a\gt b$
 (1-2) $a=b$
 (1-3) $a\lt b$

のどれか1つだけが必ず成り立ちます。それぞれ、

 (2-1) $a=b+n$ となる $0$ でない自然数 $n$ がある
 (2-2) $a=b$
 (2-3) $a+n=b$ となる $0$ でない自然数 $n$ がある

となります。この $n$ を用いると、このページで見たように

 (3-1) $[(b+n,b)]=[(n,0)]$
 (3-2) $[(a,a)]=[(0,0)]$
 (3-3) $[(a,a+n)]=[(0,n)]$

と対応します。(3-3) は、 $n$ の逆元だから $-n$ と書けるので、

 (4-1) $[(a,b)]=n$
 (4-2) $[(a,b)]=0$
 (4-3) $[(a,b)]=-n$

と同一視できることになります。そして、それぞれ、正の整数、 $0$ 、負の整数と対応しているので、例えば、負の整数なら、 $0$ でない自然数 $n$ を使って $-n$ と表せることがわかります。


$n,m$ を $0$ でない自然数とすると、 $n+m$ も $0$ でない自然数です。また、 $(-n)+(-m)=-(n+m)$ なので、次のことが成り立ちます。

正の整数同士の和、負の整数同士の和
正の整数同士の和は、正の整数である。負の整数同士の和は、負の整数である。

これは、整数の順序を考えるときに使います。

おわりに

ここでは、整数の減法の性質を見てきました。(和における)逆元が定義できるので、それを利用するのでしたね。今まで引き算を使ってこなかったですが、今後はこのシリーズでも引き算を使っていきます。

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