京都大学 理系 2006年度後期 第2問 解説
問題編
【問題】
aを実数として、行列Aを$A=\begin{pmatrix} a & 1-a \\ 1-a & a \end{pmatrix}$と定める。$\begin{pmatrix} x_0 \\ y_0 \end{pmatrix} = \begin{pmatrix} 1 \\ 0 \end{pmatrix}$とし、数列$\{x_n\}$、$\{y_n\}$を次の式で定める。\[ \begin{pmatrix} x_n \\ y_n \end{pmatrix} = A \begin{pmatrix} x_{n-1} \\ y_{n-1} \end{pmatrix}, \quad n=1,2,\cdots \]このとき数列$\{x_n\}$が収束するためのaの必要十分条件を求めよ。
【考え方】
何も考えなければ、「$A^n$を求める」という攻め方になるでしょう。ただ、今の場合Aの形が特殊なので、$A^n$を求めることなく$x_n$を求めることができます。
ここでは、まず「$A^n$を求める」解答を書いた後に、別解として「$A^n$を求めない」方法も書きたいと思います。
解答編
【問題】
aを実数として、行列Aを$A=\begin{pmatrix} a & 1-a \\ 1-a & a \end{pmatrix}$と定める。$\begin{pmatrix} x_0 \\ y_0 \end{pmatrix} = \begin{pmatrix} 1 \\ 0 \end{pmatrix}$とし、数列$\{x_n\}$、$\{y_n\}$を次の式で定める。\[ \begin{pmatrix} x_n \\ y_n \end{pmatrix} = A \begin{pmatrix} x_{n-1} \\ y_{n-1} \end{pmatrix}, \quad n=1,2,\cdots \]このとき数列$\{x_n\}$が収束するためのaの必要十分条件を求めよ。
【解答】
\begin{eqnarray}
\begin{pmatrix} x_n \\ y_n \end{pmatrix}
=
A
\begin{pmatrix} x_{n-1} \\ y_{n-1} \end{pmatrix}
=
A^n
\begin{pmatrix} 1 \\ 0 \end{pmatrix}
\end{eqnarray}なので、$A^n$を考える。
$A-\lambda E$の行列式は
\begin{eqnarray}
(a-\lambda)^2 -(1-a)^2
&=&
(a-\lambda+1-a)(a-\lambda-1+a) \\
&=&
(1-\lambda)(2a-\lambda-1) \\
\end{eqnarray}なので、Aの固有値は$\lambda =1,2a-1$である。
以下では、$a\ne 1$とする。このとき、$2a-1\ne 1$なので、Aは2つの異なる固有値を持つ。
$\lambda =1$に対応する固有ベクトルを求める。
\begin{eqnarray}
& &
\begin{pmatrix} a & 1-a \\ 1-a & a \end{pmatrix}\begin{pmatrix} x \\ y \end{pmatrix}
=
\begin{pmatrix} x \\ y \end{pmatrix}
\\[5pt]
& &
\left\{
\begin{array}{l}
ax +(1-a)y = x \\
(1-a)x + ay = y
\end{array}
\right.
\\[5pt]
& &
\left\{
\begin{array}{l}
(1-a)y = (1-a)x \\
(1-a)x = (1-a)y
\end{array}
\right.
\end{eqnarray}であり、$a\ne 1$だから、$x=y$が得られる。よって固有ベクトルは$t\begin{pmatrix} 1 \\ 1 \end{pmatrix}$と書ける。
次に、$\lambda =2a-1$に対応する固有ベクトルを求める。
\begin{eqnarray}
& &
\begin{pmatrix} a & 1-a \\ 1-a & a \end{pmatrix}\begin{pmatrix} x \\ y \end{pmatrix}
=
(2a-1)\begin{pmatrix} x \\ y \end{pmatrix}
\\[5pt]
& &
\left\{
\begin{array}{l}
ax +(1-a)y = (2a-1)x \\
(1-a)x + ay = (2a-1)y
\end{array}
\right. \\
\\[5pt]
& &
\left\{
\begin{array}{l}
(1-a)x +(1-a)y = 0 \\
(1-a)x +(1-a)y = 0
\end{array}
\right.
\end{eqnarray}であり、$a\ne 1$だから、$x=-y$が得られる。よって固有ベクトルは$t\begin{pmatrix} 1 \\ -1 \end{pmatrix}$と書ける。
よって、$P=\begin{pmatrix} 1 & 1 \\ 1 & -1 \end{pmatrix}$とすると、
\begin{eqnarray}
P^{-1}AP = \begin{pmatrix} 1 & 0 \\ 0 & 2a-1 \end{pmatrix}
\end{eqnarray}となる。また、$P^{-1}=\frac{1}{2}\begin{pmatrix} 1 & 1 \\ 1 & -1 \end{pmatrix}$である。以上から、
\begin{eqnarray}
\begin{pmatrix} x_n \\ y_n \end{pmatrix}
&=&
A^n\begin{pmatrix} 1 \\ 0 \end{pmatrix}
\\[5pt]
&=&
P\begin{pmatrix} 1 & 0 \\ 0 & 2a-1 \end{pmatrix}^nP^{-1}\begin{pmatrix} 1 \\ 0 \end{pmatrix}
\\[5pt]
&=&
\frac{1}{2}
\begin{pmatrix} 1 & 1 \\ 1 & -1 \end{pmatrix}
\begin{pmatrix} 1 & 0 \\ 0 & (2a-1)^n \end{pmatrix}
\begin{pmatrix} 1 & 1 \\ 1 & -1 \end{pmatrix}
\begin{pmatrix} 1 \\ 0 \end{pmatrix}
\\[5pt]
&=&
\frac{1}{2}
\begin{pmatrix} 1+(2a-1)^n \\ 1-(2a-1)^n \end{pmatrix}
\end{eqnarray}となる。これより、$\{x_n\}$が収束することと$(2a-1)^n$が収束することは同値。よって、$-1\lt 2a-1 \leqq 1$となる。つまり、$0\lt a \leqq 1$となる。$a\ne 1$のときを考えていたので、$0\lt a \lt 1$となる。
また、$a=1$のとき、Aは単位行列なので、明らかに$\{x_n\}$は収束する。
以上から、求める条件は$0\lt a \leqq 1$となる。
【解答終】
【解説】
Aが一般的な行列であれば、上のような解き方が基本的な流れになります。ただ、今の場合、Aが特殊な形をしているので、次のようにもっと簡単に解くこともできます。
【別解】
\begin{eqnarray}
\begin{pmatrix} x_n \\ y_n \end{pmatrix} = A \begin{pmatrix} x_{n-1} \\ y_{n-1} \end{pmatrix}
\end{eqnarray}より、
\begin{eqnarray}
\left\{
\begin{array}{l}
x_n =ax_{n-1} +(1-a)y_{n-1} \quad \cdots (1) \\
y_n =(1-a)x_{n-1} +ay_{n-1} \quad \cdots (2)
\end{array}
\right.
\end{eqnarray}が成り立つ。
(1)+(2)より、$x_n+y_n = x_{n-1}+y_{n-1}=x_0+y_0=1$となる。
また、(1)-(2)より
\begin{eqnarray}
x_n -y_n
&=&
(2a-1)x_{n-1}+(1-2a)y_{n-1} \\
&=&
(2a-1) ( x_{n-1}-y_{n-1} ) \\
&=&
(2a-1)^n ( x_0-y_0 ) \\
&=&
(2a-1)^n
\end{eqnarray}となる。よって、$x_n=\frac{1+(2a-1)^n}{2}$なので、$\{x_n\}$が収束するための条件は$-1\lt 2a-1\leqq 1$、つまり、$0\lt a \leqq 1$となる。
【別解終】