【応用】平均値の定理と極限
ここでは、平均値の定理を利用して、極限の値を求める問題を見ていきます。
平均値の定理と極限値
$x\to 0$ とすると、分母も分子も $0$ に近づいていきます。不定形なので、工夫して計算する必要があります。
$f(x)=\sin x$ と置きます。式の形を見ると、 $\sin x$ の $x=0$ での微分の式に似ている気がします。しかし、 $x=0$ での微分係数は\[ f'(0)=\lim_{x\to 0} \frac{\sin x-\sin 0}{x-0} \]なので、おしいですが少し違います。分子が違うだけなら、何かを足し引きして変形することもできるでしょうが、今の場合は分母も違うので、うまくいきそうにありません。
この式は微分の式とも似ていますが、分子を見ると、 $f(x)-f(x^2)$ という式になっていることがわかります。このような形があらわれている場合は、平均値の定理を使えば、うまく評価できることがあります。この例題がまさにそのような例になっているので、以下で見ていきましょう。
まず、 $x\to 0$ のときの極限を考えるので、 $0\lt |x|\lt 1$ として構いません。この範囲で考えます。
$f(x)=\sin x$ は、実数全体で連続で微分可能なので、平均値の定理から、\[ \frac{f(x)-f(x^2)}{x-x^2}=f'(c) \]を満たす $c$ が、 $x$ と $x^2$ の間にあることがわかります。ちなみに、 $0\lt |x|\lt 1$ の範囲を考えているので、 $x=x^2$ となることはありません。なので、この2つの数の間に $c$ がとれます。
この $c$ は、 $x$ が動くたびに変わります。 $x=0.1$ のときに上の式を満たす $c$ と、 $x=0.01$ のときに上の式を満たす $c$ は、同じとは限りません。 $c$ が $x$ と $x^2$ との間にある、ということはわかっていますが、それは $x$ の値に依存して決まります。
ということは、 $x\to 0$ とすると、 $x$ が $0$ に近づいていくたびに、 $c$ も変わっていく、ということです。 $c$ は、どんな値かわからない上に、しかも $x$ によって変わってしまうので、扱いにくいように思うかもしれません。しかし、 $c$ は、 $x$ と $x^2$ との間にあることがわかっています。この情報さえあれば、何とかすることができます。
$x\to 0$ とすると、 $x^2$ も $0$ に近づいていきます。つまり、\[ x\lt c\lt x^2 \]の場合でも\[ x^2\lt c\lt x \]の場合でも、どちらだとしても、 $x\to 0$ とすると、 $x^2\to 0$ となってしまうので、はさみうちの原理から、\[ c\to 0 \]となることがわかります。
以上のことをまとめましょう。まず、 $0\lt |x|\lt 1$ の範囲で考えると、平均値の定理から、\[ \frac{\sin x-\sin x^2}{x-x^2}=\cos c \]となる $c$ が、 $x$ と $x^2$ の間にあることがわかります。この $c$ は $x$ によって変わりますが、 $x\to 0$ のときは $x^2\to 0$ となることと、 $c$ が $x$ と $x^2$ の間にあることから、はさみうちの原理より、 $x\to 0$ とすると $c\to 0$ となることがわかります。よって、
\begin{eqnarray}
& & \lim_{x\to 0} \frac{\sin x-\sin x^2}{x-x^2} \\[5pt]
&=& \lim_{c\to 0} \cos c \\[5pt]
&=& \cos 0=1 \\[5pt]
\end{eqnarray}となります。これが答えとなります。
$f(a)$ と $f(b)$ の差を含んだ極限は、このように、 $f'(c)$ を使った式に変形してから考えると解きやすくなることがあります。
おわりに
ここでは、平均値の定理を使った極限の問題を見ていきました。 $f(b)-f(a)$ の部分を探してうまく平均値の定理を使うとこも難しいですが、 $c$ の部分に対してはさみうちの原理を使う、という手法も慣れていないと難しいですね。