【応用】平均値の定理と不等式
ここでは、平均値の定理の応用として、不等式を示す問題を考えていきます。
平均値の定理と不等式その1
真ん中の式を見ると、平均値の定理に出てくる\[ \frac{f(b)-f(a)}{b-a}=f'(c) \]の左辺の形が使えることがわかります。このことを利用して、不等式を示してみましょう。
$f(x)=e^x$ とすると、 $f(x)$ は連続かつ微分可能なので、平均値の定理から、 $a\lt c \lt b$ かつ\[ \frac{f(b)-f(a)}{b-a}=f'(c) \]を満たす $c$ が存在します。 $f'(x)=e^x$ なので、これはつまり、\[ \frac{e^b-e^a}{b-a}=e^c \]が成り立つ、ということです。
平均値の定理からわかることはここまでです。この等式を満たすような $c$ が $a$ と $b$ の間にある、ということだけであり、問題文にある不等式が成り立つことは別途考えていく必要があります。
この $c$ は具体的にどのような値かはわかりませんが、 $a\lt c\lt b$ を満たしていることだけはわかっています。このことを利用しましょう。
$e\gt 1$ なので、 $a\lt c\lt b$ から、\[ e^a\lt e^c\lt e^b \]が成り立ちます。 $e^c$ は、 $\dfrac{e^b-e^a}{b-a}$ と等しかったので、このことから、\[ e^a\lt \frac{e^b-e^a}{b-a}\lt e^b \]が成り立つことがわかります。これで示したかった不等式が示せました。
なんだか少し不思議な感じですね。途中で出てきた $c$ は、具体的にはどんな値かはわからない(求めていない)けれども、この値が満たす式を使えば、示したい式が示せるんですね。
この問題では、「平均値の定理を使う」と書いていますが、いつも書いてくれているとは限りません。書かれていない状態で思いつくのはなかなか難しいですが、\[ f(b)-f(a) \]を含んでいる式であることが見極めるポイントといえるでしょう。
$f(b)-f(a)$ をそのまま式変形することができれば、まずは変形してみたほうがいいでしょう。ただ、それができない場合に、平均値の定理が使える形にして $f'(c)$ を作り出すことで、扱いやすくなることがあります。もちろん、関数が微分可能であるなどの条件が満たされている場合にしか使えませんが。
平均値の定理と不等式その2
左辺の $\log$ を直接いじっても、あまり役立ちそうな変形はなさそうです。このような場合に平均値の定理が使えることがあります。
ただ、今の場合は、どのような関数に対して使えばいいのか、わかりにくいですね。
まずは、 $f(x)=\log(x+1)$ として考えてみましょう。こうすると、この関数は $x\gt 0$ の範囲で連続で微分可能だから、平均値の定理より、 $a\lt c\lt b$ かつ\[ \frac{f(b)-f(a)}{b-a}=f'(c) \]を満たす $c$ が存在することがわかります。ここで、 $f'(x)=\dfrac{1}{x+1}$ なので、\[ \frac{\log(b+1)-\log(a+1)}{b-a}=\frac{1}{c+1} \]を満たす $c$ があるということですね。
$b-a\gt 0$ なので、目的の不等式を示すには $\dfrac{1}{c+1}\lt 1$ を示せばいいわけですが、これは $c$ がどんな値かを考えればわかりますね。 $c\gt a$ であり、 $a$ は正なのだから、 $c$ も正です。なので、\[ \frac{1}{c+1}\lt 1 \]となります。 $\dfrac{1}{c+1}$ の部分を置き換え、 $b-a$ を掛ければ、\[ \log(b+1)-\log(a+1)\lt b-a \]が成り立つことがわかります。
このように示すこともできますが、別の関数を使うことも可能です。 $g(x)=\log x$ として考えてみましょう。こうすると、示したい不等式の左辺は\[ g(b+1)-g(a+1) \]と表すことができます。この関数は $x\gt 1$ の範囲で連続で微分可能だから、平均値の定理より、 $a+1\lt c\lt b+1$ かつ\[ \frac{\log(b+1)-\log(a+1)}{(b+1)-(a+1)}=\frac{1}{c} \]を満たす $c$ が存在することがわかります。 $1\lt a+1\lt c$ なので、\[ \log(b+1)-\log(a+1)\lt b-a \]となることがわかります。このような示し方もできます。
おわりに
ここでは、平均値の定理を利用して不等式を示す問題を見ました。使いどころが難しいですが、 $f(b)-f(a)$ の形を見つけ出すようにしましょう。平均値の定理は、単純な式変形ができない場合に、使えないか検討するツールの1つです。