京都大学 理学部特色入試 2022年度 第3問 解説
(2021年11月に行われた特色入試の問題です。2022年に行われた特色入試の問題はこちら)
問題編
問題
$\mathbb{ Z }^4$ を4つの整数 $a_1,a_2,a_3,a_4$ の組 $(a_1,a_2,a_3,a_4)$ 全体のなす集合とする。このとき、以下の条件をすべて満たすような $\mathbb{ Z }^4$ の部分集合 $S$ が存在することを示せ。
(i) $(a_1,a_2,a_3,a_4)\in S$ ならば\[ (a_1)^2-(a_2)^2 +(a_3)^2-(a_4)^2=1 \]が成り立つ。
(ii) $S$ は無限集合である。
(iii) 6つの整数の組 $(d_1,d_2,d_3,d_4,d_5,d_6)$ で $(d_1,d_2,d_3,d_4)\ne(0,0,0,0)$ を満たす任意のものに対し、 $S$ の部分集合\[ \{ (a_1,a_2,a_3,a_4) \mid (a_1,a_2,a_3,a_4)\in S \ かつ \ d_1a_1+d_2a_2=d_5 \ かつ \ d_3a_3+d_4a_4=d_6 \} \]は有限集合である。
考え方
そもそも(i)の条件がよくわからないですが、(ii)を見ると、少なくともこの条件を満たすものは無限個あることがわかります。
そこで、まずは(i)を満たすようなものを、いくつか具体的に作ってみましょう。そして、それをよく見て、どうやれば無限個作れるかを考えます。
うまく作れたら、(iii)の条件を考えましょう。恒等式のことを思い出して、係数がどうなっていたらいいかを考えましょう。
構成ができれば、示すこと自体は簡単です。構成までが本質です。
解答編
問題
$\mathbb{ Z }^4$ を4つの整数 $a_1,a_2,a_3,a_4$ の組 $(a_1,a_2,a_3,a_4)$ 全体のなす集合とする。このとき、以下の条件をすべて満たすような $\mathbb{ Z }^4$ の部分集合 $S$ が存在することを示せ。
(i) $(a_1,a_2,a_3,a_4)\in S$ ならば\[ (a_1)^2-(a_2)^2 +(a_3)^2-(a_4)^2=1 \]が成り立つ。
(ii) $S$ は無限集合である。
(iii) 6つの整数の組 $(d_1,d_2,d_3,d_4,d_5,d_6)$ で $(d_1,d_2,d_3,d_4)\ne(0,0,0,0)$ を満たす任意のものに対し、 $S$ の部分集合\[ \{ (a_1,a_2,a_3,a_4) \mid (a_1,a_2,a_3,a_4)\in S \ かつ \ d_1a_1+d_2a_2=d_5 \ かつ \ d_3a_3+d_4a_4=d_6 \} \]は有限集合である。
解答
$S=\{(4n^2+1,3n,n,4n^2) \mid n\in \mathbb{Z} \}$ とする。
このとき、
\begin{eqnarray}
& &
(4n^2+1)^2-(3n)^2+(n)^2-(4n^2)^2 \\[5pt]
&=&
(4n^2+1)^2-(4n^2)^2+(n)^2-(3n)^2 \\[5pt]
&=&
8n^2+1-8n^2=1 \\[5pt]
\end{eqnarray}なので、 $S$ は (i) を満たす。
また、 $n$ が異なれば、組 $(4n^2+1,3n,n,4n^2)$ も異なる。よって、 $S$ は無限集合だから、(ii) を満たす。
最後に、$S$ が(iii)を満たすことを示す。
$(d_1,d_2,d_3,d_4,d_5,d_6)$ を、6つの整数の組で、$(d_1,d_2,d_3,d_4)\ne(0,0,0,0)$ を満たすとする。このとき、次の2つの式
\begin{eqnarray}
& & (4n^2+1)d_1+3n\cdot d_2=d_5 \\[5pt]
& & n\cdot d_3+4n^2\cdot d_4=d_6 \\[5pt]
\end{eqnarray}について考える。これらを変形すると、それぞれ次のようになる。
\begin{eqnarray}
& & 4d_1\cdot n^2+3d_2 \cdot n +d_1-d_5=0 \\[5pt]
& & 4d_4\cdot n^2+d_3 \cdot n -d_6=0 \\[5pt]
\end{eqnarray}ここで、 $n^2,n$ の係数のどれかは $0$ 以外の値なので、上の2つのうち、少なくとも片方は「一次方程式か二次方程式」である。よって、これを満たす $n$ は高々2個である。このことから、 $S$ が(iii) を満たすことがわかる。
以上より、$S=\{(4n^2+1,3n,n,4n^2) \mid n\in \mathbb{Z} \}$ とすればよいので、条件(i)(ii)(iii)を満たす $\mathbb{Z}$ の部分集合 $S$ が存在することが示せた。
(終)
解説
まず、(i)の条件式を満たす組を無限個作ることを考えます。適当に小さい値を代入して試行錯誤すると、$(5,4,1,3)$ などが見つかります。ただ、これから安直に $(a,b,1,c)$ ($a,b,c$ は$a^2+b^2=c^2$ を満たす整数)などとしてもうまくいきません。(i)(ii)を満たしますが、 $d_1=d_2=d_5=0$, $d_3=1,d_4=0,d_6=1$ などとすると、(iii)が満たされません。
また、 $(7,6,2,4)$ なども満たしますが、これから安直に $(2n+1,2n,n-1,n+1)$ などとしてもうまくいきません。 $d_1=1,d_2=-1,d_5=1$, $d_3=d_4=d_6=0$ などとすると、(iii)が満たされません。
いろいろ試行錯誤してみると、$a_1,a_2,a_3,a_4$ を、すべて $n$ の式で表しつつ、 $a_1$ と $a_2$ 、 $a_3$ と $a_4$ で次数が違うようにすればいいことがわかります。「有限集合になる」という条件は、式が恒等式ではなく方程式になることだといえるからです。これに注意して構成すれば、見つけやすいでしょう。