京都大学 理学部特色入試 2020年度 第2問 解説
(2019年11月に行われた特色入試の問題です。2020年に行われた特色入試の問題はこちら)
問題編
問題
次の3つのルール(i), (ii), (iii) にしたがって三角形 ABC の頂点上でコマを動かすことを考える。
(i) 時刻 $0$ においてコマは頂点 A に位置している。
(ii) 時刻 $0$ にサイコロを振り、出た目が偶数なら時刻 $1$ で頂点 B に、出た目が奇数なら時刻 $1$ で頂点 C にコマを移動させる。
(iii) $n=1,2,3,\cdots$ に対して、時刻 $n$ にサイコロを振り、出た目が $3$ の倍数でなければ時刻 $n+1$ でコマを時刻 $n-1$ に位置していた頂点に移動させ、出た目が $3$ の倍数であれば時刻 $n+1$ でコマを時刻 $n-1$ にも時刻 $n$ にも位置していなかった頂点に移動させる。
時刻 $n$ においてコマが頂点 A に位置する確率を $p_n$ とする。以下の設問に答えよ。
(1) $p_2$, $p_3$ を求めよ。
(2) $n=1,2,3,\cdots$ に対して $p_{n+1}$ を $p_{n-1}$ と $p_n$ を用いて表せ。
(3) 極限値 $\displaystyle \lim_{n\to\infty}p_n$ を求めよ。
考え方
3の倍数のときの扱いがやっかいですが、動くパターンは少ないので、遷移を実際にいくつかかいて見ると思いつきやすいかもしれません。(2)では、 $p_n$ をどう使うのかをよく考えましょう。
(3)は答えは予想しやすいので、予想をめがけて変形していきます。
解答編
問題
次の3つのルール(i), (ii), (iii) にしたがって三角形 ABC の頂点上でコマを動かすことを考える。
(i) 時刻 $0$ においてコマは頂点 A に位置している。
(ii) 時刻 $0$ にサイコロを振り、出た目が偶数なら時刻 $1$ で頂点 B に、出た目が奇数なら時刻 $1$ で頂点 C にコマを移動させる。
(iii) $n=1,2,3,\cdots$ に対して、時刻 $n$ にサイコロを振り、出た目が $3$ の倍数でなければ時刻 $n+1$ でコマを時刻 $n-1$ に位置していた頂点に移動させ、出た目が $3$ の倍数であれば時刻 $n+1$ でコマを時刻 $n-1$ にも時刻 $n$ にも位置していなかった頂点に移動させる。
時刻 $n$ においてコマが頂点 A に位置する確率を $p_n$ とする。以下の設問に答えよ。
(1) $p_2$, $p_3$ を求めよ。
解答
時刻 $n$ と $n+1$ で同じ頂点にいるとすると、ルール(iii)から、時刻 $n-1$ も同じ頂点にいたことになる。これを繰り返していくと、時刻 $0$ と $1$ で同じ頂点にいたことになるが、それはルール(ii) に反する。よって、時刻が $1$ 進むと、コマは必ず別の頂点にいることに注意する。
(1) 時刻 $1$ では、コマは必ず B か C にある。時刻 $2$ に A にいるのは、時刻 $1$ で振ったサイコロの目が3の倍数以外のときだけである。よって、\[ p_2=\dfrac{2}{3} \]となる。
時刻が $1$ 進むとコマは必ず別の頂点にいることと、時刻 $0$ では頂点 A にいることから、時刻 $3$ でコマが A にいるケースは、時刻 $0$ から $3$ の間に、A→B→C→A と移動するか A→C→B→A と移動するときの2通りしかない。よって、\[ p_3=\dfrac{1}{2}\times \dfrac{1}{3}\times\frac{1}{3}\times 2=\dfrac{1}{9} \]となる。
(1)終
解答編 つづき
問題
(2) $n=1,2,3,\cdots$ に対して $p_{n+1}$ を $p_{n-1}$ と $p_n$ を用いて表せ。
解答
(2)
時刻 $n+1$ でコマが A にいる場合を考えるため、時刻 $n-1$ で A にいるか A 以外にいるかで場合分けをして考える。
(a) 時刻 $n-1$ でコマが A にある場合
時刻が $1$ 進むとコマは別の頂点に移動することから、時刻 $n+1$ でコマが A にいるのは、時刻 $n-1$ から $n+1$ で、A→B→A, A→C→A と遷移する場合しかない。こうなるのは、時刻 $n$ で振ったサイコロの目が、3の倍数でないときである(時刻 $n-1$ で振ったサイコロの目は何でもよい)。
よって、時刻 $n-1$ でコマが A にあって、時刻 $n+1$ でも A にある確率は、 $\dfrac{2}{3}p_{n-1}$ となる。
(b) 時刻 $n-1$ でコマが A 以外にある場合
時刻 $n+1$ でコマが A にいるのは、時刻 $n-1$ から $n+1$ で、B→C→A, C→B→A と遷移する場合しかないため、こうなる確率を考える。
一般に、今考えているケースでは、時刻 $n-1$ から時刻 $n$ におけるコマの遷移は、次の4つのどれかであり、これ以外はない。
B→A, C→A, B→C, C→B
また、時刻 $n$ でコマが A にあるとき、時刻 $n-1$ から時刻 $n$ におけるコマの遷移は、次の2つのどちらかであり、これ以外はない。
B→A, C→A
以上より、時刻 $n-1$ で A 以外にいる確率は $1-p_{n-1}$ であり、さらに、時刻 $n$ で A に移動しない確率は $1-p_{n-1}-p_n$ となる。加えて、時刻 $n$ で3の倍数が出れば、A に移動する。
時刻 $n-1$ でコマが A 以外にあって、時刻 $n+1$ で A にあるケースはこの場合しかないので、こうなる確率は、 $\dfrac{1}{3}(1-p_{n-1}-p_n)$ となる。
(a)(b)より
\begin{eqnarray}
p_{n+1}
&=&
\dfrac{2}{3}p_{n-1} + \dfrac{1}{3}(1-p_{n-1}-p_n) \\[5pt]
&=&
-\dfrac{1}{3}p_{n} +\dfrac{1}{3}p_{n-1} +\dfrac{1}{3}
\end{eqnarray}となる。
(2)終
解答編 つづき
問題
(3) 極限値 $\displaystyle \lim_{n\to\infty}p_n$ を求めよ。
解答
(2)でえられた式は、次のように変形できる。\[ p_{n+1}-\frac{1}{3}=-\dfrac{1}{3}\left(p_{n}-\dfrac{1}{3}\right) +\dfrac{1}{3}\left(p_{n-1}-\dfrac{1}{3}\right) \]ここで、 $q_n=p_{n}-\dfrac{1}{3}$ と置くと\[ q_{n+1}=-\dfrac{1}{3}q_{n} +\dfrac{1}{3}q_{n-1} \]と変形できる。
$x^2+\dfrac{1}{3}x-\dfrac{1}{3}=0$ の解は $x=\dfrac{-1\pm\sqrt{13} }{6}$ であり、どちらの解も絶対値は1より小さい。この解の大きい方を $\alpha$, 小さい方を $\beta$ とすると
\begin{eqnarray}
\left\{
\begin{array}{l}
q_{n+1}-\alpha q_{n} &=& \beta \left(q_{n}-\alpha q_{n-1}\right) \\[5pt]
q_{n+1}-\beta q_{n} &=& \alpha \left(q_{n}-\beta q_{n-1}\right) \\[5pt]
\end{array}
\right.
\end{eqnarray}が成り立つ。これらより、
\begin{eqnarray}
q_{n+1}-\alpha q_{n} &=& \beta^n \left(q_{1}-\alpha q_{0}\right) \\[5pt]
q_{n+1}-\beta q_{n} &=& \alpha^n \left(q_{1}-\beta q_{0}\right)
\end{eqnarray}が成り立つ。 $\alpha,\beta$ の絶対値はどちらも $1$ より小さいので、どちらの式も右辺は $n\to\infty$ のときに $0$ に収束する。よって、どちらの左辺も $0$ に収束する。
\begin{eqnarray}
|q_n|
&=&
\dfrac{1}{|\beta-\alpha|} |\beta q_n-\alpha q_n| \\[5pt]
&=&
\dfrac{1}{|\beta-\alpha|} |q_{n+1}-\alpha q_n -q_{n+1}+\beta q_n| \\[5pt]
&\leqq&
\dfrac{1}{|\beta-\alpha|} \left(|q_{n+1}-\alpha q_n| + |q_{n+1}-\beta q_n|\right) \\[5pt]
\end{eqnarray}であり、 $n\to\infty$ のときに最後の式は $0$ に収束するので $|q_n|\to 0$ である。よって、\[ \lim_{n\to\infty}p_n=\dfrac{1}{3} \]となる。
(3)終