京都大学 理学部特色入試 2020年度 第1問 解説
(2019年11月に行われた特色入試の問題です。2020年に行われた特色入試の問題はこちら)
問題編
問題
$0\leqq x\lt 1$ の範囲で定義された連続関数 $f(x)$ は $f(0)=0$ であり、 $0\lt x\lt 1$ において何回でも微分可能で次を満たすとする。\[ f(x)\gt 0, \quad \sin\left( \sqrt{f(x)} \right) = x \]この関数 $f(x)$ に対して、 $0\lt x\lt 1$ で連続な関数 $f_n(x)$, $n=1,2,3,\cdots$ を以下のように定義する。\[ f_n(x)=\dfrac{d^n}{dx^n}f(x) \]以下の設問に答えよ。
(1) 関数 $-xf'(x)+(1-x^2)f^{\prime\prime}(x)$ は $0\lt x \lt 1$ において $x$ によらない定数値をとることを示せ。
(2) $n=1,2,3,\cdots$ に対して、極限 $\displaystyle a_n=\lim_{x\to+0} f_n(x)$ を求めよ。
(3) 極限 $\displaystyle \lim_{N\to\infty} \left( \sum_{n=1}^N \dfrac{a_n}{n!2^{\frac{n}{2} }} \right)$ は存在することが知られている。この事実を認めた上で、その極限値を小数第1位まで確定せよ。
考え方
扱いにくい関数で、うまく変形していかないと計算が大変なことになってしまいます。(2)は(1)の式を使って計算しますが、ここでも漸化式をうまく導くようにしましょう。
(3)は、具体的に計算してみるとわかりますが、はじめのいくつかの項はある程度の大きさの値になりますが、ある先からは極端に小さくなります。ある場所から先は足しても無視できるくらいの大きさであることを示しましょう。各項をうまく変形しようとしてもあまりきれいな結果にはならず、泥臭い評価をすることになります。
解答編
問題
$0\leqq x\lt 1$ の範囲で定義された連続関数 $f(x)$ は $f(0)=0$ であり、 $0\lt x\lt 1$ において何回でも微分可能で次を満たすとする。\[ f(x)\gt 0, \quad \sin\left( \sqrt{f(x)} \right) = x \]この関数 $f(x)$ に対して、 $0\lt x\lt 1$ で連続な関数 $f_n(x)$, $n=1,2,3,\cdots$ を以下のように定義する。\[ f_n(x)=\dfrac{d^n}{dx^n}f(x) \]以下の設問に答えよ。
(1) 関数 $-xf'(x)+(1-x^2)f^{\prime\prime}(x)$ は $0\lt x \lt 1$ において $x$ によらない定数値をとることを示せ。
解答
(1)
$f(x)$ は微分可能だから $\sin\left( \sqrt{f(x)} \right)$ も微分可能である。また、 $\sin\left( \sqrt{f(x)} \right)$ は $0$ 以上 $1$ 未満の値しかとらないので、 $\cos\left( \sqrt{f(x)} \right)$ は $0$ にはならない。よって、条件式を微分して
\begin{eqnarray}
\cos\left( \sqrt{f(x)} \right) \cdot\dfrac{f_1(x)}{2\sqrt{f(x)} } &=& 1 \\[5pt]
f_1(x) &=& \dfrac{2\sqrt{f(x)} }{\cos\left( \sqrt{f(x)} \right)} \\[5pt]
\end{eqnarray}が得られる。また、 $\dfrac{f_1(x)}{\sqrt{f(x)} }\cos \left( \sqrt{f(x)} \right)=2$ とも変形できることに注意する。
$f_1(x)$ をもう一度微分すると
\begin{eqnarray}
f_2(x)
&=&
\dfrac{2\cdot\dfrac{f_1(x)}{2\sqrt{f(x)} }\cos \left( \sqrt{f(x)} \right)}{\cos^2 \left( \sqrt{f(x)} \right)} \\
& &
-\dfrac{2\sqrt{f(x)} \cdot (-1)\sin \left( \sqrt{f(x)}\right) \cdot \dfrac{f_1(x)}{2\sqrt{f(x)} } }{\cos^2 \left( \sqrt{f(x)} \right)} \\[5pt]
&=&
\dfrac{\dfrac{f_1(x)}{\sqrt{f(x)} }\cos \left( \sqrt{f(x)} \right) +f_1(x)\sin \left( \sqrt{f(x)}\right)}{\cos^2 \left( \sqrt{f(x)} \right)} \\[5pt]
&=&
\dfrac{2 +xf_1(x)}{1-x^2}
\end{eqnarray}となる。
よって
\begin{eqnarray}
& &
-xf'(x)+(1-x^2)f^{\prime\prime}(x) \\[5pt]
&=&
-xf_1(x)+2 +xf_1(x) \\[5pt]
&=&
2
\end{eqnarray}となり、 $x$ によらない定数値をとることがわかる。
(1)終
解答編 つづき
問題
(2) $n=1,2,3,\cdots$ に対して、極限 $\displaystyle a_n=\lim_{x\to+0} f_n(x)$ を求めよ。
解答
(2)
(1)の計算結果から、 $f_1(x)=\dfrac{2\sqrt{f(x)} }{\cos\left( \sqrt{f(x)} \right)}$ で $x\to +0$ のときに $f(0)\to 0$ だから、 $f_1(x)\to 0$ となる。また、 $f_2(x)=\dfrac{2 +xf_1(x)}{1-x^2}$ なので、 $f_2(x)\to 2$ となる。よって、 $a_1=0$, $a_2=2$ である。
ここで、 $n=1,2,3,\cdots$ について、次が成り立つことを示す。\[ -n^2f_{n}(x) -(2n+1)x f_{n+1}(x) +(1-x^2) f_{n+2}(x) = 0 \]
(i) $n=1$ のときを示す。(1)より\[ -xf_1(x)+(1-x^2)f_2(x)=2 \]なので、両辺を $x$ で微分すると
\begin{eqnarray}
-f_1(x) -xf_2(x) -2xf_2(x) +(1-x^2)f_3(x) &=& 0 \\[5pt]
-f_1(x) -3xf_2(x) +(1-x^2)f_3(x) &=& 0 \\[5pt]
\end{eqnarray}となり、 $n=1$ のときに成り立つことがわかる。
(ii) $n=k$ の時に成り立つとすると、\[ -k^2f_{k}(x) -(2k+1)x f_{k+1}(x) +(1-x^2) f_{k+2}(x) = 0 \]が成り立つので、この両辺を微分すると、左辺は
\begin{eqnarray}
& &
-k^2f_{k+1}(x) \\
& &
-(2k+1)f_{k+1}(x)-(2k+1)x f_{k+2}(x) \\
& &
-2xf_{k+2}(x) +(1-x^2)f_{k+3}(x)
\end{eqnarray}となるので、整理すると
\begin{eqnarray}
-(k+1)^2f_{k+1}(x) -(2k+3)x f_{k+2}(x) +(1-x^2)f_{k+3}(x) &=& 0 \\[5pt]
\end{eqnarray}となり、 $n=k+1$ のときも成り立つことがわかる。
(i)(ii) より、すべての正の整数 $n$ に対して\[ -n^2f_{n}(x) -(2n+1)x f_{n+1}(x) +(1-x^2) f_{n+2}(x) = 0 \]が成り立つ。これより、 $0\lt x \lt 1$ では\[ f_{n+2}(x) =\dfrac{ n^2f_{n}(x) +(2n+1)x f_{n+1}(x) }{1-x^2} \]が成り立つ。このことから、 $x\to +0$ のときに $f_n(x)$ と $f_{n+1}(x)$ が極限を持てば、 $f_{n+2}(x)$ も極限を持つことがわかるので、すべての $n$ について、 $a_n$ は定義できる。
\begin{eqnarray} & & \lim_{x\to +0}\dfrac{ n^2f_{n}(x) +(2n+1)x f_{n+1}(x) }{1-x^2} \\[5pt] &=& n^2 a_n \\[5pt] \end{eqnarray}となるので、\[ a_{n+2}=n^2 a_n \]が成り立つ。 $k$ を正の整数とすると、 $a_1=0$ なので、 $n=2k-1$ とかけるときは $a_{2k-1}=0$ である。 $a_2=2$ なので、 \begin{eqnarray} a_{2k} &=& (2k-2)^2 a_{2k-2} \\[5pt] &=& (2k-2)^2 (2k-4)^2 a_{2k-4} \\[5pt] &=& \cdots \\[5pt] &=& (2k-2)^2 (2k-4)^2 \cdots 2^2 a_2 \\[5pt] &=& 2^{2k-2} (k-1)^2 (k-2)^2 \cdots 1^2 \cdot 2 \\[5pt] &=& 2^{2k-1} \{ (k-1)! \}^2 \\[5pt] \end{eqnarray}となる。以上から、 $k$ を正の整数として、 $n=2k-1$ のときは $a_n=0$, $n=2k$ のときは $a_n=2^{2k-1} \{ (k-1)! \}^2$ となる。
(2)終
解答編 つづき
問題
(3) 極限 $\displaystyle \lim_{N\to\infty} \left( \sum_{n=1}^N \dfrac{a_n}{n!2^{\frac{n}{2} }} \right)$ は存在することが知られている。この事実を認めた上で、その極限値を小数第1位まで確定せよ。
解答
(3)
(2)より、部分和の奇数番目の項は無視して、偶数番目の項だけを考えればよい。 $k$ を正の整数とし、 $n=2k$ とする。このとき、
\begin{eqnarray}
& &
\frac{a_n}{n!2^{\frac{n}{2} }} \\[5pt]
&=&
\frac{2^{2k-1} \{ (k-1)! \}^2}{(2k)!2^k} \\[5pt]
&=&
\frac{2^{k-1} (k-1)!\cdot (k-1)!}{ (2k)! } \\[5pt]
\end{eqnarray}となる。ここで、 $2^{k-1} (k-1)!$ は、 $2$ から $2k-2$ までの整数の積と一致する。よって、
\begin{eqnarray}
& &
\frac{a_n}{n!2^{\frac{n}{2} }} \\[5pt]
&=&
\frac{ (k-1)! }{2k \cdot \{ (2k-1)(2k-3)\cdots 3\cdot 1 \} } \\[5pt]
\end{eqnarray}となる。なお、分母は、 $1$ から $2k-1$ までの $k$ 個の奇数の積に $2k$ を掛けたものである。
$k=1$ のときは
\begin{eqnarray}
& &
\frac{ 0! }{2 \cdot 1 } \\[5pt]
&=&
\frac{1}{2} \\[5pt]
&=&
0.5
\end{eqnarray}となる。 $k=2$ のときは
\begin{eqnarray}
& &
\frac{ 1! }{4 \cdot 3 \cdot 1 } \\[5pt]
&=&
\frac{1}{12} \\[5pt]
&=&
0.08333\cdots
\end{eqnarray}となる。 $k=3$ のときは
\begin{eqnarray}
& &
\frac{ 2! }{6 \cdot 5 \cdot 3 \cdot 1 } \\[5pt]
&=&
\frac{1}{45} \\[5pt]
&=&
0.02222\cdots
\end{eqnarray}となる。よって、 $k=3$ までの3つの項を足すと、 $0.6$ 以上 $0.61$ 未満であることがわかる。
$k\geqq 4$ のときは
\begin{eqnarray}
& &
\frac{ (k-1)! }{2k \cdot \{ (2k-1)(2k-3)\cdots 3\cdot 1 \} } \\[5pt]
&=&
\frac{1}{2k(2k-1)} \cdot \frac{k-1}{2k-3} \cdot \frac{k-2}{2k-5}\cdots \cdot \frac{1}{1} \\[5pt]
&\leqq&
\frac{1}{2k(2k-1)} \\[5pt]
&\leqq&
\frac{1}{2k(2k-2)} \\[5pt]
&=&
\frac{1}{4} \left( \frac{1}{k-1}-\frac{1}{k} \right) \\[5pt]
\end{eqnarray}となることから、 $k=4$ 以降について $\dfrac{a_n}{n!2^{\frac{n}{2} }}$ を足したものは、 $\dfrac{1}{4}\cdot\dfrac{1}{4-1}=\dfrac{1}{12} = 0.08333\cdots$ 以下であることがわかる。
以上から、 $\displaystyle \lim_{N\to\infty} \left( \sum_{n=1}^N \dfrac{a_n}{n!2^{\frac{n}{2} }} \right)$ は、 $0.60$ 以上で、 $0.61+0.084\lt 0.7$ 未満であることがわかるので、極限値を小数第1位まで求めると、 $0.6$ となる。
(3)終