🏠 Home / 京都大学 / 京大特色

京都大学 理学部特色入試 2019年度 第3問 解説

(2018年11月に行われた特色入試の問題です。2019年に行われた特色入試の問題はこちら

問題編

問題

 $c$ を正の実数とする。このとき、実数 $q$ に対して、次の条件により数列 $x_1,x_2,x_3,\cdots$ を定めることを考える。
\begin{eqnarray} & \mathrm{ (A) } & x_1=q \\[5pt] & \mathrm{ (B) } & x_{n+1}=\frac{1}{2c-x_n}\ (n=1,2,3,\cdots) \end{eqnarray}ここで、ある自然数 $k$ に対して $x_k=2c$ となる場合、 $x_{k+1}$ の値を漸化式(B) によって定義することはできないので、このときは上記の数列を第 $k$ 番目の項 $x_k$ で停止させ、これをこの数列の末項とする。このように、条件 (A), (B) により定まる数列に置いて、ある自然数 $k$ について $x_k=2c$ となるとき、 $q$ を漸化式 (B) の不都合な初項と呼ぶことにする。例えば $q=2c$ のとき、 $x_1=2c$ となるので、 $2c$ は漸化式 (B) の不都合な初項である。以下の設問に答えよ。

(1) $c\gt 1$ ならば、漸化式 (B) の不都合な初項は無限に多く存在することを示せ。

(2) $c\gt 1$ とする。実数 $q$ が漸化式 (B) の不都合な初項であるとき、次の不等式を示せ。\[ c+\sqrt{c^2-1}\lt q\leqq 2c \]

(3) 次の命題 (P) が成り立つような実数 $c$ が $0\lt c\lt 1$ の範囲に存在することを示せ。

 (P) 任意に自然数 $M$ を与えるとき、漸化式 (B) の不都合な初項 $q$ であって、不等式\[ |q|\gt M \]を満たすものが存在する。

考え方

初項から考えるのではなく、 $x_k=2c$ から考えていった方がわかりやすいと思います。

(1)は、不都合な初項が、次々と作り出せることを示します。無限に存在することを言うため、それぞれの値が異なることも示しましょう。

(3)は、きれいな $c$ の値を考えてしまうとうまくいきません。 $0\lt c\lt 1$ のときは、(2)の左辺が虚数になることから、複素数を使った式変形をしていきます。なお、 $M$ を決めてから $c$ を決めることができない点に注意しましょう。 $c$ は $M$ を含まない式で書ける必要があります。


解答編

問題

 $c$ を正の実数とする。このとき、実数 $q$ に対して、次の条件により数列 $x_1,x_2,x_3,\cdots$ を定めることを考える。
\begin{eqnarray} & \mathrm{ (A) } & x_1=q \\[5pt] & \mathrm{ (B) } & x_{n+1}=\frac{1}{2c-x_n}\ (n=1,2,3,\cdots) \end{eqnarray}ここで、ある自然数 $k$ に対して $x_k=2c$ となる場合、 $x_{k+1}$ の値を漸化式(B) によって定義することはできないので、このときは上記の数列を第 $k$ 番目の項 $x_k$ で停止させ、これをこの数列の末項とする。このように、条件 (A), (B) により定まる数列に置いて、ある自然数 $k$ について $x_k=2c$ となるとき、 $q$ を漸化式 (B) の不都合な初項と呼ぶことにする。例えば $q=2c$ のとき、 $x_1=2c$ となるので、 $2c$ は漸化式 (B) の不都合な初項である。以下の設問に答えよ。

(1) $c\gt 1$ ならば、漸化式 (B) の不都合な初項は無限に多く存在することを示せ。

解答

(1)
$x_{n+1}=\alpha$ $(\alpha\ne 0)$ とすると、\[ x_n=2c-\frac{1}{\alpha} \]となり、値は1つに定まる。よって、 $x_1=q$ としたときに、 $x_k=2c$ となるなら、$q$ は
\begin{eqnarray} y_1 &=& 2c \\[5pt] y_{j+1} &=& 2c-\frac{1}{y_j} \ (j=1,2,\cdots) \end{eqnarray}で定められる数列 $\{y_j\}$ の $k$ 番目の項と一致し、この数列に出てくる項以外に、不都合な初項となることはない。

まず、 $1\lt y_j\leqq 2c$ であることを示す。(これより、 $y_j\ne 0$ だから、この数列が定義できることもわかる)

$j=1$ のときは、 $y_1=2c$ なので、 $1\lt y_j\leqq 2c$ を満たす。

$j=i$ のときに、 $1\lt y_i\leqq 2c$ と仮定する。

このとき、\[ y_{i+1} = 2c-\frac{1}{y_i} \]だから
\begin{eqnarray} 2c-\frac{1}{y_i} \gt 2c-1 \gt 1 \end{eqnarray}であり、 \begin{eqnarray} 2c-\frac{1}{y_i} \leqq 2c-\frac{1}{2c} \leqq 2c \end{eqnarray}なので、 $j=i+1$ のときも成り立つ。

以上より、 $1\lt y_k\leqq 2c$ が成り立ち、この数列が定義できること、無限数列であることがわかる。

また、
\begin{eqnarray} y_{j+2}-y_{j+1} &=& 2c-\frac{1}{y_{j+1} } -2c+\frac{1}{y_j} \\ &=& \frac{y_{j+1}-y_j}{y_{j+1}y_j} \end{eqnarray}と、\[ y_2=2c-\frac{1}{y_1}\lt 2c=y_1 \]から、数列 $\{y_j\}$ は単調減少であることがわかる。

数列 $\{y_j\}$ の各項は不都合な初項であり、無限数列で、かつ、同じ項がないため、漸化式 (B) の不都合な初項は無限に多く存在することが示せた。

((1)終)

解答編 つづき

問題

(2) $c\gt 1$ とする。実数 $q$ が漸化式 (B) の不都合な初項であるとき、次の不等式を示せ。\[ c+\sqrt{c^2-1}\lt q\leqq 2c \]

解答

(2)

(1)で導入した $\{y_j\}$ について考える。この数列の各項以外に、漸化式(B) の不都合な初項はないので、この数列の各項が、与えられた不等式を満たすことを示せばよい。

(1)で、 $y_j\leqq 2c$ を示しているので、 $y_j\gt c+\sqrt{c^2-1}$ を示せばよい。

$j=1$ のときは、\[ c+\sqrt{c^2-1}\lt c+\sqrt{c^2}=2c=y_1 \]なので、成り立つ。

$j=i$ のときに $y_j\gt c+\sqrt{c^2-1}$ が成り立つとすると
\begin{eqnarray} y_{j+1} &=& 2c-\frac{1}{y_j} \\[5pt] &\gt& 2c-\frac{1}{c+\sqrt{c^2-1} } \\[5pt] &=& 2c-\frac{c-\sqrt{c^2-1} }{c^2-(c^2-1)} \\[5pt] &=& c+\sqrt{c^2-1} \end{eqnarray}となり、 $j=i+1$ のときも成り立つ。

以上から、\[ c+\sqrt{c^2-1}\lt q\leqq 2c \]が成り立つことが示せた。

((2)終)

解答編 つづき

問題

(3) 次の命題 (P) が成り立つような実数 $c$ が $0\lt c\lt 1$ の範囲に存在することを示せ。

 (P) 任意に自然数 $M$ を与えるとき、漸化式 (B) の不都合な初項 $q$ であって、不等式\[ |q|\gt M \]を満たすものが存在する。

解答

(3)

(2)と同様に、数列 $\{y_j\}$ を考える。項の絶対値をいくらでも大きくできるような、 $c$ があることを示せばよい。

$0\lt c\lt 1$ のとき、\[ y=2c-\frac{1}{y} \]を解くと、\[ y^2-2cy+1=0 \]から、虚数解 $y=c\pm\sqrt{c^2-1}$ を持つことがわかる。 $\alpha_1=c+\sqrt{c^2-1}$, $\alpha_2=c-\sqrt{c^2-1}$ とおく。

\[z_j=\frac{y_j-\alpha_2}{y_j-\alpha_1}\]とおく( $y_j$ は実数で、 $\alpha_1$ は $0$ でない複素数なので、分母が $0$ になることはない)。このとき、
\begin{eqnarray} z_{j+1} &=& \frac{y_{j+1}-\alpha_2}{y_{j+1}-\alpha_1} \\[5pt] &=& \frac{2c-\frac{1}{y_j}-\alpha_2}{2c-\frac{1}{y_j}-\alpha_1} \\[5pt] &=& \frac{2cy_j-1-\alpha_2y_j}{2cy_j-1-\alpha_1y_j} \\[5pt] &=& \frac{(2c-\alpha_2)y_j-1}{(2c-\alpha_1)y_j-1} \\[5pt] \end{eqnarray}となる。ここで、 $\alpha_1,\alpha_2$ は、 $2c-y=\dfrac{1}{y}$ の解なので \begin{eqnarray} z_{j+1} &=& \frac{\frac{1}{\alpha_2}y_j-1}{\frac{1}{\alpha_1}y_j-1} \\[5pt] &=& \frac{\alpha_1y_j-\alpha_1\alpha_2}{\alpha_2y_j-\alpha_1\alpha_2} \\[5pt] &=& \frac{\alpha_1}{\alpha_2}z_j \\[5pt] \end{eqnarray}となることがわかる。よって、 \begin{eqnarray} z_j &=& \left(\frac{\alpha_1}{\alpha_2}\right)^{j-1} z_1 \\[5pt] &=& \left(\frac{\alpha_1}{\alpha_2}\right)^{j-1} \cdot \frac{y_1-\alpha_2}{y_1-\alpha_1}\\[5pt] &=& \left(\frac{\alpha_1}{\alpha_2}\right)^{j-1} \cdot \frac{2c-\alpha_2}{2c-\alpha_1}\\[5pt] &=& \left(\frac{\alpha_1}{\alpha_2}\right)^{j-1} \cdot \frac{\frac{1}{\alpha_2} }{\frac{1}{\alpha_1} }\\[5pt] &=& \left(\frac{\alpha_1}{\alpha_2}\right)^j \end{eqnarray}となる。

よって、 $\alpha_1^j\ne\alpha_2^j$ のときは
\begin{eqnarray} \left(\frac{\alpha_1}{\alpha_2}\right)^j &=& \frac{y_j-\alpha_2}{y_j-\alpha_1} \\[5pt] \alpha_1^j(y_j-\alpha_1) &=& \alpha_2^j(y_j-\alpha_2) \\[5pt] y_j &=& \frac{\alpha_1^{j+1}-\alpha_2^{j+1} }{\alpha_1^j-\alpha_2^j} \\[5pt] \end{eqnarray}となる。

ここで、 $\alpha_1=c+\sqrt{c^2-1}$, $\alpha_2=c-\sqrt{c^2-1}$ であり、ともに絶対値が $1$ の虚数で虚部の符号だけが違うので、 $\alpha_1=\cos \theta+i\sin\theta$, $\alpha_2=\cos \theta-i\sin\theta$ と置くことができる。これを用いて変形すると
\begin{eqnarray} y_j &=& \frac{\alpha_1^{j+1}-\alpha_2^{j+1} }{\alpha_1^j-\alpha_2^j} \\[5pt] &=& \frac{2i \sin (j+1)\theta}{2i \sin j\theta} \\[5pt] &=& \frac{\sin (j+1)\theta}{\sin j\theta} \\[5pt] &=& \cos\theta +\sin \theta \cdot \frac{1}{\tan j\theta} \\[5pt] \end{eqnarray}と表すことができる。

ここで、 $\theta=1$ ( $1$ ラジアン)としたとき、 $|\tan j\theta|$ がどんな正の数に対しても、さらに小さくなるように $j$ が選べることを言えばよい。

半径が $1$ の円周を $N$ 等分し、 $N$ 個の弧を作る。また、原点を中心として、 $(1,0)$ を反時計回りに $n$ ラジアン回転して得られる点を $\mathrm{ P }_n$ とする。 $\dfrac{2\pi}{N}$ は無理数なので、円周の等分点と各 $\mathrm{ P }_n$ が重なることはない。また、各 $\mathrm{ P }_n$ 同士も重なることはない。

このとき、 $\mathrm{ P }_1$ から $\mathrm{ P }_{N+1}$ の中で、同じ弧に属する2点がある。その点を $\mathrm{ P }_s$ と $\mathrm{ P }_t$ とする( $s\lt t$ )と、 $(t-s)$ ラジアン回転して得られる点と $(1,0)$ とをつないだ弧の長さは、正の値で $\dfrac{1}{N}$ 未満となる。

よって、 $N$ は任意なので、弧の長さはいくらでも小さくできる。このことから、 $|\tan j\theta|$ もいくらでも小さくすることができる。

以上から、 $\theta=1$ とし、 $c=\cos\theta$ とすると、どんな大きな値に対しても、絶対値がそれより大きい不都合な初項をとってこれるので、命題 (P) が成り立つ実数 $c$ が $0\lt c\lt 1$ に存在することが示せた。

(終)

関連するページ

YouTubeもやってます

チャンネル登録はコチラから (以下は、動画のサンプルです)
慶應義塾大学薬学部2024年度数学第1問5 同志社大学文系2024年度数学第1問3 昭和大学医学部I期2024年度数学第2問 兵庫医科大学2024年度数学第3問 共通テスト2B2024年度第3問2のヒントについて 久留米大学医学部推薦2024年度数学第4問