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【標準】二項分布と正規分布

ここでは、$n$ が十分大きい場合に、二項分布を正規分布で近似する問題を見ていきます。

📘 目次

例題1

例題
当たり2本を含む5本のくじから、2本を引く試行を考える。この試行を1600回繰り返したとき、2本とも当たりを引いた回数が $130$ 以上 $175$ 以下となる確率を、四捨五入によって小数点第2位まで求めなさい。正規分布による近似、正規分布表を用いてもよい。

2本とも当たりを引く回数を $X$ とすると、 $X$ は二項分布に従います。そこで、まずはどんな二項分布なのかを考えます。

はじめに、2本とも当たりを引く確率を考えます。全部で5本、当たりは2本で、2本を引くのだから
\begin{eqnarray} \frac{ {}_2 \mathrm{C}_2 }{ {}_5 \mathrm{C}_2 } &=& \frac{1}{10} \\[5pt] \end{eqnarray}となります。

こうして、 $X$ は二項分布 $B(1600, \frac{1}{10})$ に従うことがわかります。

次に、期待値は、$np$ で求められるので、\[ E(X)=1600\cdot\frac{1}{10}=160 \]となります。分散は $np(1-p)$ で求められるので、\[ V(X)=1600\cdot\frac{1}{10}\cdot\frac{9}{10}=144 \]となります。標準偏差は $\sqrt{144}=12$ となります。

ここで、二項分布が正規分布で近似できることを使うと、 $X$ は近似的に、正規分布 $N(160, 12^2)$ に従うことがわかります。

さらに、$\dfrac{X-160}{12}$ は近似的に、標準正規分布に従います。また、
\begin{eqnarray} & & 130 \leqq X \leqq 175 \\[5pt] & & -30 \leqq X-160 \leqq 15 \\[5pt] & & -2.5 \leqq \frac{X-160}{12} \leqq 1.25 \\[5pt] \end{eqnarray}となることから、 $Z$ を標準正規分布に従う確率変数とすると、\[ P(-2.5\leqq Z\leqq 1.25) \]を答えればいいことになります。


正規分布

ここまでで、代表的な離散型確率変数である 二項分布 と、代表的な連続型確率変数である 正規分布 についてみてきました。これらは全然違うように見えますが、実は関係があります。

サイコロを $n$ 回投げて、1の目が $X$ 回出るとします。 $X$ の分布は $B\left(n,\frac{1}{6}\right)$ に従います。ヒストグラムをかくとこのようになります。

これは、 $n=6$ の場合です。期待値が $1$ なので、 $1$ 付近の確率が高くなっており、徐々に確率は下がっています。さらに回数を増やして $n=60$ にすると、次のようになります。

先ほどよりも、山の形がハッキリしてきました。さらに増やすとこのようになります。 $n=600$ とします。(見にくいので、棒を囲む黒線は非表示にしています。)

$X$ は $0$ から $600$ までの値を取りうるので、上のような区間をとっていますが、端のほうの確率はほとんど見えませんね。 $X=100$ あたりの部分を拡大して表示すると、次のようになります。

これと、正規分布 $N\left(100,\frac{250}{3}\right)$ の分布曲線とを比較してみます。この $100$ と $\frac{250}{3}$ は、二項分布の期待値 $600\cdot\dfrac{1}{6}=100$ と分散 $600\cdot\dfrac{1}{6}\cdot\dfrac{5}{6}=\dfrac{250}{3}$ に由来しています。

すごく形が似ていますね。実際に確率を比較してみましょう。 $100$ 以上 $100+\frac{250}{3}=\frac{550}{3}$ 以下となる確率は、それぞれ次のようになります。 $X$ が二項分布、 $Y$ が正規分布に従っているとします。なお、二項分布の方は、コンピュータを使って求めています。
\begin{eqnarray} P\left(100\leqq X \leqq \frac{550}{3}\right) &=& 0.3678\cdots \\[5pt] P\left(100\leqq Y \leqq \frac{550}{3}\right) &=& 0.3413\cdots \\[5pt] \end{eqnarray} 近い値になっています。さらに $n$ を増やして $n=6000$ とすると、上の確率の差( $m\leqq X\leqq m+\sigma$ の確率)は、さらに縮まって、$0.002$ 程度となります。

ここでは具体的な例を見ましたが、これは一般的に成り立ちます。 $n$ が十分大きい場合には、二項分布 $B(n,p)$ は、正規分布 $N(np, np(1-p))$ で近似することができます。残念ながら、高校の範囲でこれを示すことは難しいのですが、試験などではこの内容を使ってもかまいません。

「十分大きい」とは具体的にどれくらいなのか気になるかもしれませんが、問題を解く場合には、「十分大きいので近似できるものとする」というような文言が書かれているはずです。過去の共通テストの問題を見てみると、 $n$ が数百くらいであれば、「近似できる」と書かれています。実務上では、計算にどれくらいの精度が必要かによって、必要な $n$ の大きさが変わってくるでしょう。

近似できると何がいいか

$n$ が大きい場合に二項分布を正規分布で近似できると、二項分布の確率が計算しやすくなります。

二項分布の場合、確率は以下の値を足し合わせて求める必要があります。\[ {}_n\mathrm{C}_k p^k(1-p)^{n-k} \]$n$ が大きくなると、一般的に ${}_n\mathrm{C}_k$ はすごく大きな値になり、 $p^k(1-p)^{n-k}$ はすごく小さな値となり、人間が手計算で求めるには限界があります。

ところが、正規分布が使えるなら、【基本】正規分布で見たように、標準正規分布に変換して、正規分布表を使って確率を求めることができるようになります。

先ほどの例であれば、二項分布で $P(100\leqq X\leqq \frac{550}{3})$ を計算するのは大変ですが、正規分布であれば
\begin{eqnarray} & & 100\leqq X\leqq \frac{550}{3} \\[5pt] & & 0\leqq X-100\leqq \frac{250}{3} \\[5pt] & & 0\leqq \frac{X-100}{\frac{250}{3}}\leqq 1 \\[5pt] \end{eqnarray}と変形でき、 $Z=\dfrac{X-100}{\frac{250}{3}}$ は標準正規分布に従うので、正規分布表から $P(0\leqq Z\leqq 1)=0.3413$ と求められます。

このように、離散的な問題を連続的な問題に近似・変形して考えることは、この例に限らず、実務上の場面でも行うことがあります。

おわりに

ここでは、 $n$ が十分大きいときに、二項分布を正規分布で近似できる話を見てきました。こうすることで、二項分布に関する確率を、正規分布表を使って求めることができるようになります。共通テストなどでも出題されることがあるので練習しておきましょう。

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