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【導入】どうして式に文字を使うのか

中学の数学では、文字を使った式を扱います。そこで、そもそも、どうして文字を使うのか、ここでは考えていくことにします。

文字を使った式を習う前に読んでも、しっくりこない部分があるかもしれません。習ってしばらくたってから、何度か立ち戻って読んでみると、内容がよく理解できると思います。

📘 目次

わからないものを表すのに便利

例えば、次のような問題を考えるとしましょう。

例題
太郎さんには、3歳年上のお兄さんがいます。太郎さんとお兄さんの年齢の合計は25歳です。太郎さんの年齢はいくつですか。

いろいろ考え方はあると思いますが、はじめに、太郎さんの年齢を基準にして、考えていくことにしましょう。

まず、お兄さんは3歳年上なのだから、お兄さんの年齢は、「太郎さんの年齢+3」であることがわかります。また、「太郎さんとお兄さんの年齢の合計は25歳」なので、「太郎さんの年齢+お兄さんの年齢=25」が成り立ちます。この2つの式から

 「太郎さんの年齢+(太郎さんの年齢+3)=25」

であることがわかりますね。この式から、太郎さんの年齢を2回足したら、25-3=22歳 になることがわかるので、太郎さんの年齢は、11歳だ、とわかります。

実際、このとき、お兄さんの年齢は14歳で、合計すると、たしかに25歳になっています。

このように考えてもいいのですが、「太郎さんの年齢」を何度もかくのは面倒だし、式も長くなり、考えづらいですね。そこで、「太郎さんの年齢」を $x$ という文字でシンプルに表してみましょう。 $x$ は、今はどんな数字かはわからないけど、何かの数字を表しているものとして扱います。先ほどと同じようにして、この $x$ の正体を考えてみましょう。

太郎さんの年齢が $x$ 歳なら、3歳年上のお兄さんの年齢は、 $(x+3)$ 歳となります。そして、二人の年齢の和が25歳なので、\[ x+(x+3)=25 \]となります。 $x$ を2回足して3を足すと25になるのだから、 $x$ を2回足したものは22。だから、 $x=11$ だとわかりますね。先ほどの答えと一致します。

名探偵コナンを見たことがある人なら、真っ黒の犯人を見たことがあるでしょう。真っ黒にすることで、「犯人は誰かはわからないけど、犯人がこんな行動をとった」という表現ができます。先ほど用いた $x$ と、この真っ黒な犯人は似ています。どちらも、はじめの段階では中身はわからないけれど、それを使えば、話を進めていくことができます。

今の問題では、「お兄さんの年齢は太郎さんの年齢の3つ上」「二人の年齢の合計は25歳」という、比較的シンプルな条件だったので、ありがたみがあまり感じられないかもしれません。将来、もっと複雑な条件を扱う頃には、実感できるようになるでしょう。

わからないものを文字を使って表すことで、表現がシンプルになり、考えやすくなります。

関係を表すのに便利

先ほどの例題では、太郎さんとお兄さんの年齢の差が3歳だということがわかっていました。太郎さんもお兄さんも、どちらの年齢もはじめはわからなかったのですが、「太郎さんの年齢がわかれば、お兄さんの年齢がわかる」ことが問題を解く手がかりとなっていました。

この、「太郎さんの年齢とお兄さんの年齢」のように、2つの値の関係を表すのにも、文字を使うとスッキリと表すことができます。太郎さんの年齢を $x$ 歳、お兄さんの年齢を $y$ 歳とすると、お兄さんは太郎さんの3歳年上なのだから\[ y=x+3 \]と表すことができます。言葉で書くよりも、スッキリ表せます。

実際には、 $x,y$ には具体的な数を入れて使います。 $x=0$ なら $y=3$ となります。これは、太郎さんが生まれたときには、お兄さんが3歳であることを表しています。 $x=97$ なら $y=100$ です。これは、太郎さんが97歳なら、お兄さんは100歳であることを表しています。二人の年齢の関係が、 $y=x+3$ という式で表されています。

繰り返しになりますが、状況が比較的シンプルなので、ありがたみがあまり感じられないかもしれません。そのため、わざわざ文字を使って表す必要がないんじゃないか、と思うかもしれません。ただ、これも、将来もっと複雑なものを扱うときには、ありがたみがわかってきます。

関係を文字で表すことで、見やすく、考えやすくなります。

一般的な数を表すのに便利

最後は、「数を一般化したものとして、文字を使う」という例です。

例えば、【基本】正負の数の加法の性質では、加法の交換法則が成り立つことを説明したときに、\[ (+2)+(-5)=(-5)+(+2) \]という式をかいて、「このように、数を入れ替えて足しても、答えが変わらないことを、加法の交換法則と言います」と書きました。これは、「ここでは、 $+2$ と $-5$ で説明しているけれど、他の数でも一般的に成り立つことなんですよ」と書いていますが、見方によっては、「 $+2$ と $-5$ の場合でしか成り立たない」と誤解してしまう人もいるかもしれません。

そこで、具体的な数ではなくて、一般的な数で成り立つことを言いたい場合には、文字を使って次のように書く方法があります:「 $a,b$ を有理数とするとき、\[ a+b=b+a \]が成り立つ」。こう書くと、 $a,b$ は、どんな有理数をあてはめてもいい、という表現になります。 $a=+2$ と $b=-5$ としてもいいし、 $a=-100$, $b=999$ としてもいいし、 $a=-\dfrac{1}{2}$, $b=-3.14$ としてもいいです。有理数であれば、なんでもいい。このことを言うためには、具体的な数を使うよりも、数を一般化した文字で説明するほうが、「一般的であること」が強調されます。

このように、文字を使うことで、一般的な数を表すことができます。

おわりに

ここでは、文字を使った式を扱うにあたり、文字をどのような場面で使うか、文字を使うことでどのような効果があるか、を考えてきました。当面は、簡単な例しか扱わないので、あまりメリットが感じられないかもしれませんが、将来、複雑な条件、関係などを扱うときには、文字で扱うことは必須となります。これから、徐々に慣れていくようにしましょう。

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