【基本】文字式の変形と方程式の変形との違い
ここでは、文字式の計算で行う変形と、方程式の変形との違いについて見ていきます。
文字式と方程式の違い
文字式と方程式を学ぶと、両者を混同してしまうことがあります。そこで、一度整理しておきましょう。
文字式とは、ある数量を、文字を使って表した式のことです。【基本】文字を使った式で表そうのページ以降、いろいろな数量を文字式で表してきました。例えば、上のリンク先では、 $x$ 個の正方形を作るのに、マッチ棒を\[ 3x+1 \]本使う、というように、マッチ棒の本数を文字式で表しました。
一方、方程式は、式の中の文字に代入する値によって、成り立ったり成り立たなかったりする等式のことです。例えば、上のマッチ棒の話で、マッチ棒を100本使ったら正方形は何個できるかを考えてみましょう。このとき、正方形を $x$ 個作るのにマッチ棒を $(3x+1)$ 本使うのだから、この式の値が $100$ であればいいですね。
$3x+1$ と $100$ とは、つねに等しいとは限りません。しかし、今はこの2種類の値が等しくなるケースを知りたいので、次の等式が成り立つ場合を考えればいいですね。\[ 3x+1=100 \]これは、 $x$ の値によって、成り立ったり成り立たなかったりします。もちろん、知りたいのは「いつ成り立つか」です。そのために、【基本】一次方程式の解き方で見たように、等式の性質を使って変形していくことになります。
両方とも、文字が入っていて似ていますが、文字式というのは、文字を使って何かの値を表しているものであり、方程式は、つねに等しいとは限らない2種類の数量が等しくなるケースを表しているもの、といえます。
文字式の変形と方程式の変形の違い
引き続き、マッチ棒を使って正方形を作る例を使って説明します。【導入】文字式の計算では、正方形 $x$ 個を作るのに使うマッチ棒の本数を、次のように表す方法もあることを見ました。\[ 4x-(x-1) \]これは、数え方が違うだけで同じものを数えているので、先ほどの $3x+1$ と同じ結果になります。実際に次のように計算して確かめられます。
\begin{eqnarray}
4x-(x-1) &=& 4x-x+1 \\[5pt]
&=& 3x+1 \\[5pt]
\end{eqnarray}これは文字式の変形です。
一方、100本のマッチ棒を使って正方形が何個できるかは、次のようにして求めることができます。
\begin{eqnarray}
3x+1 &=& 100 \\[5pt]
3x &=& 100-1 \\[5pt]
3x &=& 99 \\[5pt]
3x\div3 &=& 99\div3 \\[5pt]
x &=& 33 \\[5pt]
\end{eqnarray}1行目から2行目は、 $+1$ を移行しています(両辺から $1$ を引いた、と考えてもいいです)。3行目から5行目にかけては、両辺が等しいので、両辺をそれぞれ $3$ で割った結果も等しい、ということを使っています。こうして、 $x=33$ 、つまり、33個の正方形ができることがわかります。これは方程式の変形です。
同じ「イコールでつながれた式」ですが、上の2つは少し違っています。文字式の変形は、1行目の左辺、1行目の右辺、2行目、とすべて同じ数量を表しています。見た目は違いますが、 $x$ がどんな値であっても、同じ値になります。例えば、 $x=10$ とすれば、3つの式はいずれも $31$ になることがわかります。実際に代入して確かめてみましょう。
\begin{eqnarray}
4\times 10-(10-1) &=& 40-9=31 \\[5pt]
4\times 10-10+1 &=& 31 \\[5pt]
3\times 10+1 &=& 31 \\[5pt]
\end{eqnarray}文字式の変形は、同じ値のまま変形していきます。
一方、方程式は、1行目の左辺と右辺が等しい、2行目の左辺と右辺が等しい、…、5行目の左辺と右辺が等しい、ということは成り立ちますが、1行目の左辺と2行目の左辺とは等しくありません。方程式の変形は、「1行上の等式が成り立っているとすると、この等式も成り立っている」という考えで変形しています。「 $3x+1$ と $100$ が等しいなら、それぞれ $1$ を取り除いても等しい」ため、1行目から2行目へと変形しているわけですね。式の見た目が変わっていて、式の値も変わってはいますが、両辺が等しいという関係はつねに保たれています。解である $x=33$ を、いくつかの行に代入して確かめてみましょう。
\begin{eqnarray}
(1行目の左辺) &=& 3\times 33+1=100 \\
(1行目の右辺) &=& 100 \\[5pt]
(3行目の左辺) &=& 3\times 33=99 \\
(3行目の右辺) &=& 99
\end{eqnarray}1行目と3行目では式の値は違っていますが、各行で左辺と右辺は等しくなっています。方程式の変形は、同じ関係を保ったまま変形していきます。
方程式を学んだ後によくやる間違い
最後に、方程式を学んだ後によくやってしまいがちな間違いを見ておきましょう。【標準】一次式の計算(分数)にある\[ \dfrac{2x-1}{3}+x-2 \]を考えてみます。これを計算するときに、次のように間違って計算してしまうことがあります。
\begin{eqnarray}
\dfrac{2x-1}{3}+x-2
&=&
2x-1+3(x-2) \\[5pt]
&=&
2x-1+3x-6 \\[5pt]
&=&
5x-7 \\[5pt]
\end{eqnarray}これは間違いです。1行目の左辺から右辺に変形する際、勝手に $3$ 倍してしまっています。方程式の場合に、両辺に同じ数を掛けて変形することはありますが、文字式の計算では勝手に $3$ 倍してはいけません。文字式の計算では、同じ値のまま変形していく必要がありますが、 $3$ 倍してしまうと答えが変わってしまうからです。正しい答えは、上のリンク先にもありますが\[ \dfrac{5x-7}{3} \]です。
おわりに
ここでは、文字式と方程式の違い、そして、両者の変形の違いについて見てきました。特に、最後に紹介した「よくやる間違い」は、方程式を学んだ直後にはやってしまいがちなミスなので、注意しましょう。