京都大学 文系 2018年度 第5問 解説
問題編
問題
整数が書かれている球がいくつか入っている袋に対して、次の一連の操作を考える。ただし各球に書かれている整数は1つのみとする。
(i) 袋から無作為に球を1個取り出し、その球に書かれている整数を k とする。
(ii) $k\ne 0$ の場合、整数 k が書かれた球を1個新たに用意し、取り出した球とともに袋に戻す。
(iii) $k=0$ の場合、袋の中にあった球に書かれていた数の最大値より1大きい整数が書かれた球を1個新たに用意し、取り出した球とともに袋に戻す。
整数 $0$ が書かれている球が1個入っており他の球が入っていない袋を用意する。この袋に上の一連の操作を繰り返し n 回行った後に、袋の中にある球に書かれている $n+1$ 個の数の合計を $X_n$ とする。例えば $X_1$ は常に $1$ である。以下 $n\geqq 2$ として次の問に答えよ。
(1) $X_n\geqq \dfrac{(n+2)(n-1)}{2}$ である確率を求めよ。
(2) $X_n\leqq n+1$ である確率を求めよ。
考え方
$X_n$ がどのような値をとるのかわかりづらいですが、 $X_n$ が一番小さくなる時を考えてみると、状況は把握しやすいでしょう。(2)の式と見比べると、考えるべき状況は、すごく少ないということがわかります。そうすると、(1)は $X_n$ が最大になるときを考えればいいのではないか、と予想できます。
ただ、(2)は少し確率を求めるのが難しいです。それぞれの操作で、 $0$ の球や $1$ の球が何個あるかを考えるようにしましょう。
解答編
問題
整数が書かれている球がいくつか入っている袋に対して、次の一連の操作を考える。ただし各球に書かれている整数は1つのみとする。
(i) 袋から無作為に球を1個取り出し、その球に書かれている整数を k とする。
(ii) $k\ne 0$ の場合、整数 k が書かれた球を1個新たに用意し、取り出した球とともに袋に戻す。
(iii) $k=0$ の場合、袋の中にあった球に書かれていた数の最大値より1大きい整数が書かれた球を1個新たに用意し、取り出した球とともに袋に戻す。
整数 $0$ が書かれている球が1個入っており他の球が入っていない袋を用意する。この袋に上の一連の操作を繰り返し n 回行った後に、袋の中にある球に書かれている $n+1$ 個の数の合計を $X_n$ とする。例えば $X_1$ は常に $1$ である。以下 $n\geqq 2$ として次の問に答えよ。
(1) $X_n\geqq \dfrac{(n+2)(n-1)}{2}$ である確率を求めよ。
(2) $X_n\leqq n+1$ である確率を求めよ。
解答
$k$ 回目の操作のときに、新たに入れる球に書かれている整数を $a_k$ と書くことにする。
(1)
$a_k$ の値は、最大でも $k$ である、また、 $a_k=k$ となるのは $k$ 回目まで毎回 $0$ の球を取り出したときである。
もし、 $a_1$ から $a_{n-1}$ の中での最大値が $n-1$ 未満だとすると、 $a_k$ は n 未満なので、
\begin{eqnarray}
X_n
& \lt &
0+1+2+\cdots+(n-1) +(n-1) \\[5pt]
&=&
\frac{1}{2}n(n-1) +(n-1) \\[5pt]
&=&
\frac{1}{2}(n+2)(n-1) \\[5pt]
\end{eqnarray}となる。
以上より、 $a_1$ から $a_{n-1}$ の中での最大値が $n-1$ のとき、つまり、 $n-1$ 回目まで毎回 $0$ の球を取り出すときを考えればよい。
このとき、 $k\leqq n-1$ なら $a_k=k$ なので、
\begin{eqnarray}
& &
X_n\geqq \dfrac{(n+2)(n-1)}{2} \\[5pt]
&\iff&
\frac{1}{2}n(n-1)+a_n\geqq \frac{(n+2)(n-1)}{2} \\[5pt]
&\iff&
a_n\geqq n-1 \\[5pt]
\end{eqnarray}となることがわかる。
以上から、 $k\leqq n-1$ のときは $a_k=k$ で、 $a_n$ は $n-1$ か $n$ となる確率を求めればよい。
「 $k\leqq n-1$ のときに $a_k=k$ となる確率」は、各 k $(\leqq n-1)$ に対し、 $k$ 個の球から $0$ の書かれた球を取り出す確率なので、
\begin{eqnarray}
& &
\frac{1}{2}\times\frac{1}{3}\times\cdots\times \frac{1}{n-1} \\[5pt]
&=&
\frac{1}{(n-1)!} \\[5pt]
\end{eqnarray}となる。
$a_n=n-1$ となるのは、 n 回目に取り出した球に $n-1$ が書かれているときで、 $a_n=n$ となるのは、 n 回目に取り出した球に $0$ と書かれているときであるから、求める確率は
\begin{eqnarray}
\frac{1}{(n-1)!} \times \frac{1+1}{n} = \frac{2}{n!}
\end{eqnarray}となる。
(2)
$a_k$ の最小値は $1$ である。もし、 $a_1$ から $a_n$ の中での最大値が3以上だとすると、 $a_k=1$ となる $k$ は多くても $n-1$ 個なので、
\begin{eqnarray}
X_n
&\geqq&
1\times(n-1)+3 \\[5pt]
&=&
n+2
\end{eqnarray}だから、 $X_n\leqq n+1$ となることはない。
$a_1$ から $a_n$ の中での最大値が2だとする。 $a_k=2$ となる $k$ が2個以上あるとすると
\begin{eqnarray}
X_n
&\geqq&
1\times(n-2)+2\times 2 \\[5pt]
&=&
n+2
\end{eqnarray}だから、 $X_n\leqq n+1$ となることはない。 $a_k=2$ となる $k$ が1個のときは
\begin{eqnarray}
X_n
&=&
1\times(n-1)+2\times 1 \\[5pt]
&=&
n+1
\end{eqnarray}なので、 $X_n\leqq n+1$ となる。こうなるときは、「2回目以降で、1回だけ $0$ の球が出て、それ以外は $1$ の球が出るとき」である。こうなる確率は
\begin{eqnarray}
& &
\frac{(n-1)\times(1\cdot2\cdot3\cdots(n-2))}{n!} \\[5pt]
&=&
\frac{1}{n} \\[5pt]
\end{eqnarray}である。
$a_1$ から $a_n$ の中での最大値が1だとする。このとき、 $X_n=n$ なので、 $X_n\leqq n+1$ となる。こうなるときは、「2回目以降、毎回 $1$ の球が出るとき」であり、こうなる確率は
\begin{eqnarray}
& &
\frac{1\cdot2\cdot3\cdots\cdot(n-2)\cdot(n-1)}{n!} \\[5pt]
&=&
\frac{1}{n} \\[5pt]
\end{eqnarray}である。
以上から、求める確率は、\[ \frac{2}{n} \]である。
(終)