【標準】点の一致と位置ベクトル
ここでは、2つの点が一致することの証明に、位置ベクトルを使う方法を見ていきます。
この記事の内容の一部を以下の動画でも解説しています。
重心の存在と位置ベクトル
三角形 ABC があるとし、辺 BC, CA, AB の中点を、それぞれ、 P, Q, R とします。三角形 ABC の重心を G とします。
【基本】三角形の重心で見た通り、3つの中線、つまり、 AP, BQ, CR は重心 G で交わり、重心は中線を $2:1$ に内分するのでした。
上のリンク先で図形的な証明を考えていますが、2つの性質「3つの中線が1点で交わること」「重心は中線を $2:1$ に内分すること」は、どちらも自明なことではありません。2つの中線が1点で交わることは明らかですが、3つだと明らかではないですね。内分の比率も同様です。
この「1点で交わること」は、位置ベクトルを用いれば、スッキリと示すことができます。それぞれの中線を $2:1$ に内分する点の位置ベクトルを求めてみましょう。
A, B, C の位置ベクトルを、 $\vec{a}$, $\vec{b}$, $\vec{c}$ とします。このとき、 P, Q, R の位置ベクトルは、各辺の中点であることを使えば、順番に\[ \frac{\vec{b}+\vec{c} }{2}, \ \frac{\vec{c}+\vec{a} }{2}, \ \frac{\vec{a}+\vec{b} }{2} \]となります。よって、 AP を $2:1$ に内分する点の位置ベクトルは、【基本】内分点と外分点の位置ベクトルで見たように、
\begin{eqnarray}
\frac{\vec{a}+2\times\dfrac{\vec{b}+\vec{c} }{2} }{3} = \frac{\vec{a}+\vec{b}+\vec{c} }{3}
\end{eqnarray}となります。 BQ を $2:1$ に内分する点の位置ベクトルは
\begin{eqnarray}
\frac{\vec{b}+2\times\dfrac{\vec{c}+\vec{a} }{2} }{3} = \frac{\vec{a}+\vec{b}+\vec{c} }{3}
\end{eqnarray}となり、 CR を $2:1$ に内分する点の位置ベクトルは
\begin{eqnarray}
\frac{\vec{c}+2\times\dfrac{\vec{a}+\vec{b} }{2} }{3} = \frac{\vec{a}+\vec{b}+\vec{c} }{3}
\end{eqnarray}となります。3点とも、同じ位置ベクトルになります。
位置ベクトルが同じということは、対応する点の位置も同じ、ということです(参考:【基本】位置ベクトル)。そのため、3点は一致します。このことから、3つの中線が1点で交わることがわかります。
3つの中線が1点で交わることを示すために、「各中線を $2:1$ に内分する点」を調べました。1点で交わることを知らないのに、 $2:1$ に内分する点を調べればいい、と気づくことは不自然ですが、ここでは、「点が一致すること」を示すために、「位置ベクトルが一致すること」が役立つことがある、ということをおさえておきましょう。
点が一致することの証明
先ほどの三角形をもう一度見てみましょう。
ここで、三角形 PQR の重心が三角形 ABC の重心と一致することを示してみましょう。
先ほど見た通り、三角形 ABC の重心の位置ベクトルは\[ \frac{\vec{a}+\vec{b}+\vec{c} }{3} \]となるのでしたね。【基本】三角形の重心の位置ベクトルでも見た内容ですが、各頂点の位置ベクトルの平均が、重心の位置ベクトルとなります。そのため、三角形 PQR の重心の位置ベクトルは
\begin{eqnarray}
& &
\frac{1}{3}\left( \frac{\vec{a}+\vec{b} }{2} +\frac{\vec{b}+\vec{c} }{2} +\frac{\vec{c}+\vec{a} }{2} \right) \\[5pt]
&=&
\frac{1}{3} \times \frac{2\vec{a}+2\vec{b}+2\vec{c} }{2} \\[5pt]
&=&
\frac{\vec{a}+\vec{b}+\vec{c} }{3}
\end{eqnarray}となります。2つの位置ベクトルが一致するので、2つの三角形の重心は一致することがわかります。
図形的に証明することもできますが、図は結構ごちゃごちゃしてきます。また、今回は、各辺の中点を結んだ三角形を考えましたが、各辺の内分点(各辺を $3:2$ に内分する点など)を結んだ三角形でも同じ結果が得られます。ベクトルなら係数が変わるだけですが、内分点バージョンを図で示すのは大変でしょう。
おわりに
ここでは、点の一致を示すために位置ベクトルが一致することを示すことが使える、という例を見てきました。図形的に示すこともできますが、ベクトルを使った計算のほうがスッキリ示せることもあるので、この手法も使えるようになっておきましょう。