【標準】数列の極限(ガウス記号)
ここでは、ガウス記号を含んだ数列の極限について、考えていきます。
ガウス記号について
実数 $x$ に対して、この整数部分を $\lbrack x\rbrack $ という記号で表します。整数部分とは、その数以下の整数のうち、一番大きいもののことです。この記号のことを、ガウス記号といいます(参考:【標準】整数部分と小数部分)。
例えば、 $\lbrack 3.14\rbrack=3$ となります。3.14 以下で一番大きい整数は 3 だからですね。また、整数の場合はその数自体が整数部分となるので、 $\lbrack 2\rbrack=2$ となります。負の数は少し引っかかりやすいのですが、 $\lbrack -3.14\rbrack=-4$ となります。 -3.14 以下なので、-3 は対象から外れてしまうんですね。
このガウス記号について、重要な性質があります。まず、次が成り立ちます。\[ \lbrack x\rbrack \leqq x \]整数部分は、もとの数字以下なので、これは定義に含まれている条件をそのまま書いただけですね。
また、 $x$ 以下の整数で一番大きいものは、 $x$ と比べて近い値をとることがわかります。離れていても、最大 $1$ ですね。 $x-1$ が整数部分となることはないことを考えると、次の不等式が成り立つことがわかります。\[ x-1 \lt \lbrack x\rbrack \leqq x \]
この関係式は、 $x$ がどんな値でも成り立つもので、いろんなところで使われるのですが、数列の極限を求めるときにも、以下のようにして使われることがあります。
ガウス記号を含んだ数列の極限その1
$\lbrack \sqrt{n}\rbrack$ に関して、はっきりとした値は求めにくいですね。しかし、先ほど見たガウス記号に関する不等式から、 $\lbrack \sqrt{n}\rbrack$ は $\sqrt{n}$ と近い値をとることがわかります。なので、同じように大きくなっていき、比率も $1$ に近くなるんじゃないか、と考えられます。
こうしたことをきちんと示すためには、【基本】数列の極限とはさみうちの原理で見た内容が役に立ちます。今、ガウス記号に関して使える不等式があるので、それを用いれば、\[ \frac{\sqrt{n}-1}{\sqrt{n} } \lt \dfrac{\lbrack \sqrt{n}\rbrack}{\sqrt{n} } \leqq \dfrac{\sqrt{n} }{\sqrt{n} } \]となります。右辺は $1$ であり、左辺も\[ 1-\frac{1}{\sqrt{n} } \]と変形できることから、左辺も $1$ に収束することがわかります。よって、はさみうちの原理より、真ん中も $1$ に収束することがわかります。以上より、\[ \lim_{n\to\infty} \frac{\lbrack \sqrt{n}\rbrack}{\sqrt{n} }=1 \]が得られます。
ガウス記号を含んだ数列の極限その2
ルートの中は無限大に発散するので、これは「無限大 引く 無限大」の形になっています。
このような形で、しかも、ルートが含まれていることから、【標準】数列の極限#数列の極限(有理化)で見た内容が使えそうです。
\begin{eqnarray}
& &
\sqrt{n^2+\left\lbrack \frac{n}{2} \right\rbrack } -n \\[5pt]
&=&
\frac{\left(n^2+\left\lbrack \frac{n}{2} \right\rbrack\right) -n^2}{\sqrt{n^2+\left\lbrack \frac{n}{2} \right\rbrack } +n} \\[5pt]
&=&
\frac{\left\lbrack \frac{n}{2} \right\rbrack}{\sqrt{n^2+\left\lbrack \frac{n}{2} \right\rbrack } +n} \\[5pt]
\end{eqnarray}ここで、分母と分子は無限大に発散することから、まだもう一工夫必要ですね。分母と分子を $n$ で割って考えてみます。すると、分子は\[ \frac{\left\lbrack \frac{n}{2} \right\rbrack}{n} \]となりますが、先ほどと同じように\[ \frac{n}{2}-1\lt \left\lbrack \frac{n}{2} \right\rbrack \leqq \frac{n}{2} \]が成り立つことから、各辺を $n$ で割って極限を考えれば\[ \lim_{n\to\infty} \frac{\left\lbrack \frac{n}{2} \right\rbrack}{n}=\frac{1}{2} \]となることがわかります。
一方、分母を $n$ で割ったものは
\begin{eqnarray}
& &
\frac{1}{n}\left( \sqrt{n^2+\left\lbrack \frac{n}{2} \right\rbrack } +n \right) \\[5pt]
&=&
\sqrt{1+\frac{1}{n}\cdot \frac{\left\lbrack \frac{n}{2} \right\rbrack}{n} } +1 \\[5pt]
\end{eqnarray}となります。ここで、ガウス記号の部分は $0$ に収束するものと $\dfrac{1}{2}$ に収束するものとの積になっているため、ルートの中全体は $1$ に収束することがわかります。よって、分母は $2$ に収束します。
分母・分子を $n$ で割った結果、分子は $\dfrac{1}{2}$ に収束し、分母は $2$ に収束するのだから、全体では $\dfrac{1}{4}$ に収束することがわかります。つまり、\[ \lim_{n\to\infty} \left(\sqrt{n^2+\left\lbrack \frac{n}{2} \right\rbrack } -n\right)=\frac{1}{4} \]ということです。
おわりに
ここでは、ガウス記号を含んだ数列の極限を見ました。ガウス記号があってもなくても近い値をとることを利用して、極限を求めることができましたね。厳密に示すには、はさみうちの定理を使う必要があるため、はさみうちの定理を使う問題として試験で出題されることがあります。