【発展】無理数の無理数乗は無理数か
ここでは、無理数の無理数乗は無理数になるのかどうか、について考えていきます。大学入試などでは問われることはほとんどないですが、ネタとしてはおもしろいと思います。
無理数乗の復習
$a\gt 0$ で、 $b$ が無理数のときに、 $a^b$ をどうやって定義したかを復習しましょう。【基本】実数の指数で見た通り、有理数乗を使って近づけていくのでしたね。
例えば、 $2^{\sqrt{2} }$ であれば、 $2^1$, $2^{1.4}$, $2^{1.41}$, $2^{1.414}$, $2^{1.4142}$, …というように順番に計算し、また、 $2^2$, $2^{1.5}$, $2^{1.42}$, $2^{1.415}$, $^{1.4143}$, …と大きい方からも順番に計算していけば、この間に $2^{\sqrt{2} }$ があるはずです。最終的に1つの値に近づいていくので、それを $2^{\sqrt{2} }$ にする、というように決めるのでした。
このような決め方なので、具体的にどんな数なのかはよくわかりません。なので、無理数なのか、有理数なのかも、簡単にはわかりません。変な決め方なので、ひょっとしたらいつも無理数になってしまうのではないか、という気もします。
以下では、無理数 $\sqrt{2}$ を用いた、 $\sqrt{2}^{\sqrt{2} }$ について考え、無理数の無理数乗がどうなるかを考えてみます。
ルート2のルート2乗について
$\sqrt{2}^{\sqrt{2} }$ は、もはやどんな数なのか、手で計算して具体的に求めるのは難しいです。また、 $\sqrt{2}$ が無理数であることの証明で使ったように、「有理数だと仮定すると、どこかで矛盾が生じる」というのも難しいです。
ところが、この $\sqrt{2}^{\sqrt{2} }$ は、とてもおもしろい性質があります。これのさらに $\sqrt{2}$ 乗を考えてみましょう。複雑さが増してしまう気がしますが、きれいに計算できてしまいます。
まず、指数法則の1つ $(a^m)^n=a^{mn}$ は、指数が無理数の場合でも成り立ちます(【基本】実数の指数でも書いています。ただ、厳密には証明していませんが)。これより、次のように計算できます。
\begin{eqnarray}
& &
(\sqrt{2}^{\sqrt{2} })^{\sqrt{2} } \\
&=&
\sqrt{2}^{\sqrt{2}\times\sqrt{2} } \\
&=&
\sqrt{2}^2 \\
&=&
2
\end{eqnarray}「ルート2のルート2乗のルート2乗」は、2になるんですね。きれいな結果になります。
無理数の無理数乗は無理数か、の答え
【応用】実数の分類と四則演算で見たように、無理数と無理数の和は、無理数にも有理数にもなりえます。また、積も同様です。では、無理数の無理数乗はどうでしょうか。有理数になることはあるでしょうか。
先ほど考えた内容からこの答えを出すことができます。
現時点では、 $\sqrt{2}^{\sqrt{2} }$ が無理数か有理数かはわかりません。しかし、先ほど見た通り、これをルート2乗した $(\sqrt{2}^{\sqrt{2} })^{\sqrt{2} }$ は2となり、有理数になることがわかりました。
なので、「 $\sqrt{2}^{\sqrt{2} }$ と $(\sqrt{2}^{\sqrt{2} })^{\sqrt{2} }$ のどちらかは、無理数の無理数乗が有理数になる例」ということがわかります。
もし、 $\sqrt{2}^{\sqrt{2} }$ が有理数であれば、 $a=\sqrt{2}$, $b=\sqrt{2}$ (ともに無理数)としたときの $a^b$ が有理数になる、ということになります。また、もし、 $\sqrt{2}^{\sqrt{2} }$ が無理数であれば、 $a=\sqrt{2}^{\sqrt{2} }$, $b=\sqrt{2}$ (仮定から a は無理数)としたときの $a^b$ が有理数になる(2になるから)、ということになります。
$\sqrt{2}^{\sqrt{2} }$ が無理数か有理数か、どちらかわからなくても、「無理数の無理数乗が有理数となる例」が作れるということです。なんだか不思議ですね。
ちなみに、 $\sqrt{2}^{\sqrt{2} }$ は無理数であることが知られています。「ゲルフォント=シュナイダーの定理」という定理から導けますが、その証明は難しいです。
おわりに
ここでは、無理数の無理数乗が有理数となる例を見ました。無理数乗は変わった定義の仕方でしたが、だからといって無理数乗がつねに無理数になるわけではない、ということに注意しましょう。