【応用】手前のすべての結果を使う数学的帰納法
ここでは、手前のすべての結果を使う数学的帰納法についてみていきます。
例題
(a_1+a_2+\cdots+a_n)^2=a_1^3+a_2^3+\cdots+a_n^3 \]このとき、 $a_n=n$ となることを示しなさい。
問題文にある式を使って、いくつか項を計算してみましょう。
$n=1$ とすると
\begin{eqnarray}
a_1^2 &=& a_1^3 \\[5pt]
a_1^2(a_1-1) &=& 0 \\[5pt]
\end{eqnarray}となり、 $a_1\gt0$ だから $a_1=1$ がわかります。続いて $n=2$ とすると
\begin{eqnarray}
(1+a_2)^2 &=& 1+a_2^3 \\[5pt]
2a_2+a_2^2 &=& a_2^3 \\[5pt]
a_2(a_2+1)(a_2-2) &=& 0 \\[5pt]
\end{eqnarray}となり、 $a_2\gt0$ だから $a_2=2$ となります。 $n=3$ のときは
\begin{eqnarray}
(1+2+a_3)^2 &=& 1+2^3+a_3^3 \\[5pt]
9+6a_3+a_3^2 &=& 9+a_3^3 \\[5pt]
a_3(a_3+2)(a_3-3) &=& 0 \\[5pt]
\end{eqnarray}となり、 $a_3\gt 0$ だから $a_3=3$ となります。確かに、 $a_n=n$ となりそうですね。
ただ、この例題で数学的帰納法を使う場合は、少し注意が必要です。 $n=3$ のときの式変形を見てみると、 $a_1=1$ と $a_2=2$ であることを使っていますね。問題文にある式は、第 $1$ 項から第 $n$ 項までのすべての項が式に入っているため、初項からすべてを仮定することが必要そうだ、ということが予想できます。
つまり、今回は次のような手順で示すことになります。
- $n=1$ のときに成り立つ。
- $n\leqq k$ のときに成り立つなら、 $n=k+1$ のときも成り立つ。
【応用】2つ前までさかのぼる数学的帰納法では、2つ前までさかのぼる例を見ましたが、ここでははじめから1つ手前まですべての結果を使うことになります。少し変わったドミノ倒しになります。
\begin{eqnarray}
& & 1\to2 \\[5pt]
& & 1,2\to3 \\[5pt]
& & 1,2,3\to4 \\[5pt]
& & 1,2,3,4\to5 \\[5pt]
& & \quad\quad \vdots
\end{eqnarray}
手前のすべての結果を使う数学的帰納法
上の内容を踏まえて、示してみましょう。
(i) $n=1$ の場合、先ほど見た通り、問題文にある式から\[ a_1^2(a_1-1)=0 \]が成り立つことがわかり、 $a_1\gt 0$ だから $a_1=1$ となることがわかります。
(ii) $n\leqq k$ のときに $a_n=n$ が成り立つとします。このとき、 $a_{k+1}=k+1$ となることを示します。
仮定より
\begin{eqnarray}
(a_1+a_2+\cdots+a_k+a_{k+1})^2=a_1^3+a_2^3+\cdots+a_k^3+a_{k+1}^3
\end{eqnarray}が成り立ちます。数学的帰納法の仮定より、左辺は
\begin{eqnarray}
& &
(a_1+a_2+\cdots+a_k+a_{k+1})^2 \\[5pt]
&=&
(1+2+\cdots+k+a_{k+1})^2 \\[5pt]
&=&
\left\{\frac{1}{2}k(k+1)+a_{k+1}\right\}^2 \\[5pt]
&=&
\frac{k^2(k+1)^2}{4}+k(k+1)a_{k+1}+a_{k+1}^2 \\[5pt]
\end{eqnarray}となります。ここでは、【基本】和の公式(1からnまでの和)の内容を使っています。また、右辺は
\begin{eqnarray}
& &
a_1^3+a_2^3+\cdots+a_k^3+a_{k+1}^3 \\[5pt]
&=&
1^3+2^3+\cdots+k^3+a_{k+1}^3 \\[5pt]
&=&
\frac{k^2(k+1)^2}{4}+a_{k+1}^3 \\[5pt]
\end{eqnarray}となります。ここでは、【基本】和の公式(3乗の和)の内容を使っています。
これらの式変形より
\begin{eqnarray}
k(k+1)a_{k+1}+a_{k+1}^2 &=& a_{k+1}^3 \\[5pt]
a_{k+1}\{ a_{k+1}^2-a_{k+1}-k(k+1) \} &=& 0 \\[5pt]
a_{k+1}( a_{k+1}+k)\{a_{k+1}-(k+1) \} &=& 0 \\[5pt]
\end{eqnarray}となります。ここで、 $a_{k+1}\gt 0$ なので、 $a_{k+1}=k+1$ となることがわかります。
以上から、(i)(ii)より、数学的帰納法から、すべての自然数 n について、 $a_n=n$ となることがわかります。
このように、手前のすべての結果を使う数学的帰納法は、累積帰納法などともよばれています。
おわりに
ここでは、累積帰納法について見てきました。ここで取り上げた例題のように、示したい内容に、過去のすべての内容が入っている場合には、累積帰納法を使うことがあります。示したい内容から考えれば、いつ使うかは思いつきやすいでしょう。