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京都大学 理学部特色入試 2017年度 第4問 解説

(2016年11月に行われた特色入試の問題です。2017年に行われた特色入試の問題はこちら

問題編

問題

 xy 平面上の格子点とは、その点の x 座標と y 座標がともに整数となる点のことをいう。 n を $2$ 以上の整数とする。 xy 平面上で不等式\[ 0\leqq x\leqq n-1,\quad 0\leqq y,\quad \sqrt{5}y\leqq x \]で表される領域を $D_n$ とする。 $D_n$ に属する格子点の個数を $S_n$ とおく。
 例えば、 $n=5$ のときは、領域 $D_5$ に属する格子点は $(0,0)$, $(1,0)$, $(2,0)$, $(3,0)$, $(4,0)$, $(3,1)$, $(4,1)$ の $7$ 個であるから、 $S_5=7$ となる。また、 $n=9$ のときは、以下の図のように領域 $D_9$ に属する格子点は全部で $21$ 個あるから、 $S_9=21$ である。

以下の設問に答えよ。

(1) $\displaystyle \lim_{n\to\infty} \frac{S_n}{n^2} = \frac{\sqrt{5} }{10}$ を示せ。
(2) 以下の条件(H)を満たすような実数 C は存在しないことを示せ。
 (H) すべての自然数 n について、 $\displaystyle \left| S_n-\frac{\sqrt{5}n^2}{10}\right| \lt C$ が成立する。

考え方

(1)はサービス問題です。ガウス記号をはさみうちで評価すれば、求めることができます。答えも書いてくれているし、かなり親切です。

問題は(2)です。条件を満たす実数がないということは、条件の左辺が無限大に発散するということです。誤差がどんどん積み重なっていく、というのを示していきます。(1)とはぜんぜん違うアプローチで攻めないといけません。


解答編

問題

 xy 平面上の格子点とは、その点の x 座標と y 座標がともに整数となる点のことをいう。 n を $2$ 以上の整数とする。 xy 平面上で不等式\[ 0\leqq x\leqq n-1,\quad 0\leqq y,\quad \sqrt{5}y\leqq x \]で表される領域を $D_n$ とする。 $D_n$ に属する格子点の個数を $S_n$ とおく。
 例えば、 $n=5$ のときは、領域 $D_5$ に属する格子点は $(0,0)$, $(1,0)$, $(2,0)$, $(3,0)$, $(4,0)$, $(3,1)$, $(4,1)$ の $7$ 個であるから、 $S_5=7$ となる。また、 $n=9$ のときは、以下の図のように領域 $D_9$ に属する格子点は全部で $21$ 個あるから、 $S_9=21$ である。

以下の設問に答えよ。

(1) $\displaystyle \lim_{n\to\infty} \frac{S_n}{n^2} = \frac{\sqrt{5} }{10}$ を示せ。

解答

(1) k を $0\leqq k \leqq n-1$ を満たす整数とする。

直線 $x=k$ にある領域 $D_n$ 内の格子点は、 $(k,0)$, $(k,1)$, $\cdots$, $\left(k, \left[\frac{k}{\sqrt{5} } \right] \right)$ である。ここで、 $[\cdot]$ はガウス記号である。ガウス記号の性質から\[ \frac{k}{\sqrt{5} }-1 \lt \left[\frac{k}{\sqrt{5} } \right] \leqq \frac{k}{\sqrt{5} } \]が成り立つ。

この格子点の個数を $a_k$ とすると、 $a_k = \left[\frac{k}{\sqrt{5} } \right]+1$ なので\[ \frac{k}{\sqrt{5} } \lt a_k \leqq \frac{k}{\sqrt{5} }+1 \]が成り立つ。

この式の各辺を、 $k=0$ から $k=n-1$ まで足し合わせる。真ん中は $S_n$ となる。左側は\[ \frac{1}{\sqrt{5} } \times \frac{(n-1)n}{2} \]となり、右側は\[ \frac{1}{\sqrt{5} } \times \frac{(n-1)n}{2} + n \]となる。よって、次の式が成り立つ。
\begin{eqnarray} \frac{n(n-1)}{2\sqrt{5} } \lt & S_n & \leqq \frac{n(n-1)}{2\sqrt{5} }+n \\[5pt] \frac{\sqrt{5} }{10}\left(1-\frac{1}{n}\right) \lt & \frac{S_n}{n^2} & \leqq \frac{\sqrt{5} }{10}\left(1-\frac{1}{n}\right) +\frac{1}{n} \\[5pt] \end{eqnarray}このとき、左辺も右辺も、 $n\to\infty$ としたとき、 $\displaystyle \frac{\sqrt{5} }{10}$ に収束する。よって、はさみうちの定理から \begin{eqnarray} \lim_{n\to\infty} \frac{S_n}{n^2} = \frac{\sqrt{5} }{10} \end{eqnarray}となる。

解答編 つづき

問題

(2) 以下の条件(H)を満たすような実数 C は存在しないことを示せ。
 (H) すべての自然数 n について、 $\displaystyle \left| S_n-\frac{\sqrt{5}n^2}{10}\right| \lt C$ が成立する。

解答

(2) ガウス記号の性質から\[ \frac{k}{\sqrt{5} } \lt \left[\frac{k}{\sqrt{5} } \right]+1 \leqq \frac{k}{\sqrt{5} }+1 \]が成り立つ。これより、\[ 0 \lt \left[\frac{k}{\sqrt{5} } \right]+1 -\frac{k}{\sqrt{5} } \]が成り立つ。ここで、 $k=0$ から $k=n-1$ まで足し合わせると、右辺は
\begin{eqnarray} & & S_n -\frac{1}{\sqrt{5} } \times \frac{n(n-1)}{2} \\[5pt] &=& S_n -\frac{\sqrt{5}n^2}{10} +\frac{\sqrt{5}n}{10} \\[5pt] \end{eqnarray}となることに注意する。

以下では n は $\displaystyle \left[\frac{n}{\sqrt{5} } \right] \ne \left[\frac{n+1}{\sqrt{5} } \right]$ を満たすとして、 $\displaystyle \left[\frac{k}{\sqrt{5} } \right]+1 -\frac{k}{\sqrt{5} }$ がどのような値になるかを考える。

$2.2^2 \lt 5 \lt 2.3^2$ なので、 $2.2 \lt \sqrt{5} \lt 2.3$ であるから、\[ 0.44 \lt \frac{\sqrt{5} }{5} \lt 0.46 \]が成り立つ。よって\[ 0.44 \lt \frac{k+1}{\sqrt{5} } -\frac{k}{\sqrt{5} } \lt 0.46 \]が成り立つ。このことから、整数 m に対し、\[ \left[\frac{k}{\sqrt{5} }\right]=m \]を満たす整数 k の個数は2個か3個である。

(i) 2個の場合
\[ \left[\frac{k-1}{\sqrt{5} }\right]=m-1, \left[\frac{k}{\sqrt{5} }\right]=m, \left[\frac{k+1}{\sqrt{5} }\right]=m \]となる整数 k がただ1つ存在する。ガウス記号の性質から\[ \left[\frac{k-1}{\sqrt{5} } \right]+1 -\frac{k-1}{\sqrt{5} } \gt 0 \]が成り立つ。これより
\begin{eqnarray} \left[\frac{k-1}{\sqrt{5} } \right]+1 +1 -\frac{k-1}{\sqrt{5} } -\frac{1}{\sqrt{5} } & \gt & 1-\frac{1}{\sqrt{5} } \\[5pt] \left[\frac{k}{\sqrt{5} } \right] +1 -\frac{k}{\sqrt{5} } & \gt & 1-0.46=0.54 \\[5pt] \end{eqnarray}が成り立つ。また、 \begin{eqnarray} \left[\frac{k}{\sqrt{5} } \right] +1 -\frac{k}{\sqrt{5} } -\frac{1}{\sqrt{5} } & \gt & 0.54 -\frac{1}{\sqrt{5} } \\[5pt] \left[\frac{k+1}{\sqrt{5} } \right] +1 -\frac{k+1}{\sqrt{5} } & \gt & 0.54 -0.46=0.08 \end{eqnarray}も成り立つ。よって、この2つの左辺の和は、 $0.62=0.31\times 2$ より大きくなる。

(ii) 3個の場合
\[ \left[\frac{k}{\sqrt{5} }\right]=m, \left[\frac{k+1}{\sqrt{5} }\right]=m, \left[\frac{k+2}{\sqrt{5} }\right]=m \]となる整数 k がただ1つ存在する。ガウス記号の性質から\[ \left[\frac{k+2}{\sqrt{5} } \right]+1 -\frac{k+2}{\sqrt{5} } \gt 0 \]が成り立つ。これより
\begin{eqnarray} \left[\frac{k+2}{\sqrt{5} } \right] +1 -\frac{k+2}{\sqrt{5} } +\frac{1}{\sqrt{5} } & \gt & 0.44 \\[5pt] \left[\frac{k+1}{\sqrt{5} } \right] +1 -\frac{k+1}{\sqrt{5} } & \gt & 0.44 \\[5pt] \end{eqnarray}が成り立つ。また、 \begin{eqnarray} \left[\frac{k+1}{\sqrt{5} } \right] +1 -\frac{k+1}{\sqrt{5} } +\frac{1}{\sqrt{5} } & \gt & 0.44+0.44 \\[5pt] \left[\frac{k}{\sqrt{5} } \right] +1 -\frac{k}{\sqrt{5} } & \gt & 0.88 \\[5pt] \end{eqnarray}も成り立つ。よって、この3つの左辺の和は、 $1.32(\gt 0.31\times 3)$ より大きくなる。

(i)(ii)から、 $\displaystyle \left[\frac{k}{\sqrt{5} } \right]+1 -\frac{k}{\sqrt{5} } $ を $k=0$ から $k=n-1$ まで足し合わせたものは、 $0.31n$ より大きくなることがわかる。よって、
\begin{eqnarray} S_n -\frac{\sqrt{5}n^2}{10} +\frac{\sqrt{5}n}{10} & \gt & 0.31n \\[5pt] S_n -\frac{\sqrt{5}n^2}{10} & \gt & 0.31n -\frac{\sqrt{5}n}{10} \gt \frac{3-\sqrt{5} }{10}n \\[5pt] \end{eqnarray}となる。

$\displaystyle \left[\frac{n}{\sqrt{5} } \right] \ne \left[\frac{n+1}{\sqrt{5} } \right]$ を満たす n は無限に存在し、この条件を満たしたまま $n\to\infty$ とすると、上の式の右辺は無限大に発散するので、左辺も発散する。よって、条件(H)を満たす実数 C は存在しない。

解説

(1)は普通の大学入試でも普通に出るレベルです。はさみうちを使う基本的な問題です。

ところで、格子点の個数を、「面積」に対応させて考えてみましょう。

各格子点 $(a,b)$ に対して、この点と $(a+1,b)$, $(a+1,b+1)$, $(a,b+1)$ を順番に線分でつないでできる正方形を考えます。すべての格子点についてこうした正方形を考え、すべてを合わせた図形を考えます。階段のような図形ができあがります。各正方形の面積は $1$ なので、この階段状の図形の面積は、格子点の個数と一致します。

ざっくりいうと、この問題では、「この階段状の図形の面積と、底辺が n で高さが $\displaystyle \frac{n}{\sqrt{5} }$ の三角形の面積」とを比べているわけですね。この差は、 $n^2$ で割ると、どんどん小さくできる、というのが(1)の内容です。

(2)は、「階段状の図形の面積と三角形の面積」との差は、$n^2$ で割らなければ、どんどん大きくなってしまう、という内容です。「n を大きくするにつれて、ズレも大きくなる」ことを示します。(1)とは方向性が違うので、(1)の結果を使おうとしてもうまくいきません。

結論からいうと、この差は「0でない定数× n」で近似できます(このことを「n のオーダー」と呼びます)。そのため、ズレはどんどん大きくなっていくんですね。

上の解答では、面積ではなく線分の長さで考えていますが、面積の差で考えることもできるでしょう。ただ、どちらにしろ、「差が大きくなっていく」ことをいう必要があり、地道な評価が必要となります。

こうした評価を高校数学でやる機会は少ないので、難しく感じるかもしれません。ただ、同じく格子点を扱った去年の4問目より簡単にはなっています。

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