【標準】近似式
ここでは、いろいろな関数の近似式を計算していきます。
n乗関連の近似式
【基本】近似式で見たように、 $f(x)$ が微分できるとき、 $h$ が $0$ に近ければ、次のような式が成り立ちます。\[ f(a+h) \fallingdotseq f(a)+f'(a)h \]これは、 $f(a+h)$ を右辺で近似したものです。以下では、いろいろな関数に対して、この近似式を計算してみます。(以下、$h$ は $0$ に近い値を考えるものとします。)
$n$ を $2$ 以上の自然数として、 $f(x)=x^n$ の場合を考えます。このとき、 $f'(x)=nx^{n-1}$ なので、 $h$ が $0$ に近いときには、上の式で $a=1$ とすると\[ (1+h)^n \fallingdotseq 1+nh \]となります。
この式は、次のように考えることができます。 $(1+h)^n$ は、二項定理を使うと、次のように表すことができます。(参考:【基本】n乗の展開と二項定理)\[ (1+h)^n=\sum_{k=0}^n {}_n\mathrm{C}_k h^k \]ここで、 $k=0,1$ の項だけ取り出すと $1+nh$ となります。 $k\geqq 2$ の項には、 $h$ の2乗以上が含まれています。 $h$ が $0$ に近いときには、 $1$ や $nh$ に比べると、 $h^2$ 以降は無視できるほど小さいため、上のような近似式が成り立つ、このようにとらえることができます。
指数の部分は、実数でも構いません。 $f(x)=x^p$ のときは、\[ (1+h)^p \fallingdotseq 1+ph \]となります。なので、\[ \sqrt{1+h} \fallingdotseq 1+\frac{h}{2} \]などが成り立ちます。
また、 $f(x)=\dfrac{1}{1-x}$ について考えてみます。\[ f'(x)=\frac{1}{(1-x)^2} \]なので、上で見た近似式で $a=0$ を考えると、 $f'(0)=1$ より\[ \frac{1}{1-h} \fallingdotseq 1+h \]となります。
これは、 $|h|\lt 1$ のときに、\[ \frac{1}{1-h}=1+h+h^2+h^3+\cdots \]が成り立つことを利用すると、右辺の $h^2$ 以降は小さいので無視した、ととらえることもできます。
指数・対数の近似式
$f(x)=e^x$ のとき、 $f'(x)=e^x$ なので、\[ e^x \fallingdotseq 1+x \]となります。
$f(x)=\log x$ のとき、 $f'(x)=\dfrac{1}{x}$ です。 $\log$ の真数は正でないといけないので、 $a\gt 0$ とした、次のような近似式がよく使われます。\[ \log(a+h) \fallingdotseq \frac{h}{a} \]特に、 $a=1$ のときには、\[ \log(1+h) \fallingdotseq h \]となります。
三角関数の近似式
$f(x)=\sin x$ のとき、 $f'(x)=\cos x$ なので、\[ \sin(x+h) \fallingdotseq \sin x+h\cos x \]となります。$\cos x$ は、\[ \cos(x+h) \fallingdotseq \cos x -h\sin x \]となります。
これらを踏まえて、次の問題を考えてみましょう。
上の近似式に代入すればよさそうですが、少し注意が必要です。 $x=30^{\circ}$ はいいとしても、 $h=1^{\circ}$ だと、計算が難しそうです。
そこで、まずは、角度の単位をラジアンに変えます。\[ 31^{\circ}=\frac{31}{180}\pi=\frac{\pi}{6}+\frac{\pi}{180} \]としてから、 $x=\dfrac{\pi}{6}$, $h=\dfrac{\pi}{180}$ とすればいいです。こうすると近似式を使って
\begin{eqnarray}
\cos 31^{\circ}
&=&
\cos \frac{31\pi}{180} \\[5pt]
& \fallingdotseq &
\cos \frac{\pi}{6}-\frac{\pi}{180} \sin \frac{\pi}{6} \\[5pt]
& = &
\frac{\sqrt{3}}{2}-\frac{\pi}{180} \cdot\frac{1}{2} \\[5pt]
& \fallingdotseq &
\frac{1.732}{2} -\frac{3.14}{360} \\[5pt]
&=&
0.8572\cdots
\end{eqnarray}と求められます。よって、 $0.857$ となります。
ちなみに、実際の値は $\cos 31^{\circ}=0.85716730\cdots$ となっており、確かに近い値になっています。
なお、先ほど見た $\sin $ の近似式\[ \sin(x+h) \fallingdotseq \sin x+h\cos x \]で $x=0$ とすると、\[ \sin h \fallingdotseq h \]となります。これは\[ \lim_{x\to 0}\frac{\sin x}{x}=1 \]を表している、ととらえることもできます。
おわりに
ここでは、いろいろな関数に対して、近似式を実際に計算してみました。これらを使うと、極限値の予測ができるようになったりします。