【発展】テイラー展開
ここでは、近似式をより発展させて、いろんな関数を整式で近似する方法を見ていきます。また、テイラー展開についても見ていきます。
なお、ここの内容は高校数学の範囲外ですが、これをベースとした入試問題が出題されることはあります。
テイラーの定理
【基本】近似式では、一次の近似式を見て、【標準】二次近似式では、二次の近似式を見ました。同じ発想で、もっと次数をあげた近似式を考えることができます。
$n$ 回微分可能な関数 $f(x)$ を考えます($n$ は自然数)。 $a\leqq x \leqq b$ として、 $f(x)$ を $n$ 次の整式で近似することを考えます。
【標準】二次近似式でも見たように、近似できていたら、微分して $x=a$ としたときの値が同じになっているとよさそうです(値の変化の仕方が似ているということだから)。なので、 $f(x)$ を $k$ 回微分して $x=a$ としたもの $f^{(k)}(a)$ と、近似式を $k$ 回微分して $x=a$ としたものが一致しているケースを考えます。 $x=a$ としたときに計算が楽になるように、近似式を\[ \sum_{k=0}^n t_k(x-a)^k \]と置くことにしましょう。 $k$ 回微分して $x=a$ とすると、 $(x-a)^k$ 以外はすべて消えて、結果は $t_k k!$ となります。よって、
\begin{eqnarray}
f^{(k)}(a) &=& t_k k! \\[5pt]
t_k &=& \frac{f^{(k)}(a)}{ k!} \\[5pt]
\end{eqnarray}となります。つまり、近似式は、このような形になっているんじゃないか、と予想できます。\[ \sum_{k=0}^n \frac{f^{(k)}(a)}{k!} (x-a)^k \]ちなみに、 $k=0$ のときの項は、 $\dfrac{f^{(0)}(a)}{0!}(x-a)^0=f(a)$ です。
この予想が正しいことを以下で説明していきます。以下の説明も、【標準】二次近似式で見た内容を拡張したものです。
$F(x)$ を次のようにおきます。
\begin{eqnarray}
F(x) &=& \sum_{k=0}^{n-1} \frac{f^{(k)}(x)}{k!} (b-x)^k +\frac{A}{n!} (b-x)^n
\end{eqnarray}ここで、 $A$ は、 $F(a)$ が $f(b)$ と一致するようにとります。こうすると、 $F(a)=f(b)$ ですし、 $F(b)$ は $\sum$ の $k=0$ のところ以外はすべて $0$ になり、 $F(b)=f(b)$ となることがわかります。
$F(x)$ は微分可能なので、平均値の定理から\[ \frac{F(b)-F(a)}{b-a}=F'(c) \]で $a\lt c\lt b$ を満たす $c$ が存在します。この $c$ は $a,b$ によって決まる値です。左辺は $0$ なので、 $F'(c)=0$ だとわかります。
次に、 $F'(x)$ を計算します。 $n\geqq 2$ とすると
\begin{eqnarray}
F(x)
&=&
\sum_{k=0}^{n-1} \frac{f^{(k+1)}(x)}{k!} (b-x)^k\\
& &
+\sum_{k=1}^{n-1} \frac{f^{(k)}(x)}{k!} \cdot(-k)(b-x)^{k-1} \\
& &
+\frac{A}{n!} \cdot(-n) (b-x)^{n-1} \\[5pt]
&=&
\sum_{k=0}^{n-1} \frac{f^{(k+1)}(x)}{k!} (b-x)^k\\
& &
-\sum_{k=1}^{n-1} \frac{f^{(k)}(x)}{(k-1)!} (b-x)^{k-1} \\
& &
-\frac{A}{(n-1)!} (b-x)^{n-1} \\[5pt]
&=&
\sum_{k=0}^{n-1} \frac{f^{(k+1)}(x)}{k!} (b-x)^k\\
& &
-\sum_{k=0}^{n-2} \frac{f^{(k+1)}(x)}{k!} (b-x)^k \\
& &
-\frac{A}{(n-1)!} (b-x)^{n-1} \\[5pt]
\end{eqnarray}となります。最後の式変形では、2つ目の $\sum$ で、 $k$ を $k+1$ に置き換えています。こうすると、2つの $\sum$ のほとんどの項が消えて、1つ目の $\sum$ で $k=n-1$ としたものだけが残ります。 $n=1$ のときも、1つ目の $\sum$ の $k=0$ だけが残ります。よって、
\begin{eqnarray}
& &
F'(x) \\[5pt]
&=&
\frac{f^{(n)}(x)}{(n-1)!} (b-x)^{n-1} -\frac{A}{(n-1)!} (b-x)^{n-1} \\[5pt]
&=&
\frac{f^{(n)}(x)-A}{(n-1)!} (b-x)^{n-1}
\end{eqnarray}となります。 $F'(c)=0$ であり、 $b\ne c$ なので、\[ A=f^{(n)}(c) \]となることがわかります。
以上から、
\begin{eqnarray}
F(x) &=& \sum_{k=0}^{n-1} \frac{f^{(k)}(x)}{k!} (b-x)^k +\frac{f^{(n)}(c)}{n!} (b-x)^n
\end{eqnarray}となります。 $x=a$ とすると、 $F(a)=f(b)$ となるようにしていたので
\begin{eqnarray}
f(b) &=& \sum_{k=0}^{n-1} \frac{f^{(k)}(a)}{k!} (b-a)^k +\frac{f^{(n)}(c)}{n!} (b-a)^n
\end{eqnarray}となることがわかります。このような $c$ が存在することを、テイラーの定理(Taylor's theorem) といいます。
\[ f(b) = \sum_{k=0}^{n-1} \frac{f^{(k)}(a)}{k!} (b-a)^k +\frac{f^{(n)}(c)}{n!} (b-a)^n \]
これを用いると、近似式も得られます。 $b\to a$ のとき、 $f^{(n)}(c) \to f^{(n)}(a)$ だから、 $b$ が $a$ に十分近いときは、
\begin{eqnarray}
f(b) &\fallingdotseq& \sum_{k=0}^{n} \frac{f^{(k)}(a)}{k!} (b-a)^k
\end{eqnarray}が成り立ちます。
$b-a=h$ と置いて書き直すと、 $h$ が $0$ に近いときに
\begin{eqnarray}
f(a+h) &\fallingdotseq& \sum_{k=0}^{n} \frac{f^{(k)}(a)}{k!} h^k
\end{eqnarray}が成り立つ、ということができます。
【基本】近似式 や 【標準】二次近似式で見た内容は、 $n=1$ や $n=2$ とした場合に該当します。
テイラー展開
テイラーの定理に出てきた次の式\[ f(b) = \sum_{k=0}^{n-1} \frac{f^{(k)}(a)}{k!} (b-a)^k +\frac{f^{(n)}(c)}{n!} (b-a)^n \]の中で、 $\sum$ のところは $a$ についての $n-1$ 次の整式です。一方、最後の項に含まれる $c$ は、 $a,b$ によって決まる変数であり、整式で表せなかった誤差の部分ととらえることもできます。こうしたこともあり、この $c$ を含む最後の項は、ラグランジュの剰余項と呼ばれています。
この剰余項について考えてみます。 $f(x)$ が何回も微分できるとすると、 $n$ をどんどん増やしていけば、\[ \frac{f^{(n)}(c)}{n!} (b-a)^n \]が小さくなっていくことがあります。
具体例でいうと、 $f(x)=e^x$ の場合、 $f^{(n)}(c)=e^c$ なので、 $e^a$ か $e^b$ よりは小さいです。また、階乗と $n$ 乗なら、階乗のほうが発散スピードが速い(参考:【応用】定積分を使って不等式を示す(和を含む))ので、\[ \lim_{n\to\infty} \frac{f^{(n)}(c)}{n!} (b-a)^n=0 \]となります。文字がいっぱいあって難しいですが、 $n$ だけを動かしています。 $n$ を動かすと $c$ も動くのですが、 $e^a$ か $e^b$ でおさえられるので、結局 $0$ に収束します。
このように、$n\to \infty$ のとき、剰余項が $0$ に収束する場合は、\[ f(x)=\sum_{k=0}^{\infty} \frac{f^{(k)}(a)}{k!} (x-a)^k \]と表すことができます。この右辺のことを テイラー級数(Taylor series) といい、 $f(x)$ から右辺のように変形することを、 テイラー展開(Taylor expansion) といいます。
例えば、 $f(x)=e^x$ の場合、先ほど見たように、剰余項は $0$ に収束するので、 $a=0$ としてテイラー展開すると\[ e^x=1+x+\frac{x^2}{2!}+\cdots+\frac{x^n}{n!}+\cdots \]が得られます。特に、 $x=1$ とすると\[ e=1+\frac{1}{1!}+\frac{1}{2!}+\cdots+\frac{1}{n!}+\cdots \]が得られます。例えば、 $\dfrac{1}{5!}$ までを足すと、結果は $2.716\cdots$ となります。実際には $e=2.718\cdots$ なので、確かに近い値になっています。
また、 $f(x)=\sin x$ の場合は、$n\to \infty$ のとき、剰余項は\[ \left| \frac{f^{(n)}(c)}{n!} (b-a)^n \right|\leqq \frac{1}{n!} |b-a|^n \to 0 \]となります。 $f^{(n)}(x)$ は $\pm\sin x$ か $\pm\cos x$ なので、最大でも $1$ であることを使っています。このことから、この場合もテイラー展開できて\[ \sin x=x-\frac{x^3}{3!}+\frac{x^5}{5!}-\cdots+(-1)^{2n+1}\frac{x^{2n+1}}{(2n+1)!}+\cdots \]となります。
同様に、 $f(x)=\cos x$ の場合もテイラー展開できて\[ \cos x=1-\frac{x^2}{2!}+\frac{x^4}{4!}-\cdots+(-1)^{2n}\frac{x^{2n}}{(2n)!}+\cdots \]となります。
$\log x$ の場合は、真数が正でないといけないので、そのままではなく $f(x)=\log (1+x)$ を考えることにします。このとき
\begin{eqnarray}
f'(x) &=& \frac{1}{x}=(1+x)^{-1} \\[5pt]
f^{(2)}(x) &=& -(1+x)^{-2} \\[5pt]
f^{(3)}(x) &=& 2(1+x)^{-3} \\[5pt]
f^{(4)}(x) &=& -3!(1+x)^{-4}
\end{eqnarray}となり、 $f^{(n)}(x)=(-1)^{n-1}(n-1)!(1+x)^{-n}$ となることがわかります。このことから、剰余項は
\begin{eqnarray}
\left| \frac{f^{(n)}(c)}{n!} (b-a)^n \right|
&=&
\frac{(n-1)!}{n!} \frac{|b-a|^n}{|1+c|^n} \\[5pt]
&=&
\frac{1}{n} \frac{|b-a|^n}{|1+c|^n} \\[5pt]
\end{eqnarray}となります。今回はちょっと収束することは簡単には言えません(例えば、 $a=1,b=5,c=2$ みたいなこともありえるので)。そこで、ここでは少し範囲を限定して考えます。まず、 $a=0$ とします。また、 $0\lt b\leqq 1$ としましょう。 $a\lt c\lt b$ なので、
\begin{eqnarray}
\left| \frac{f^{(n)}(c)}{n!} (b-a)^n \right|
&=&
\frac{1}{n} \frac{|b-a|^n}{|1+c|^n} \\[5pt]
&\lt&
\frac{1}{n} \frac{|1-0|^n}{|1+0|^n} \\[5pt]
&\lt&
\frac{1}{n}
\end{eqnarray}だから、この場合は $n\to\infty$ のときに剰余項が $0$ に収束することがいえます。よって
\begin{eqnarray}
\log (1+x) &=& x-\frac{x^2}{2}+\frac{x^3}{3}-\cdots+(-1)^{n+1}\frac{x^n}{n}+\cdots
\end{eqnarray}となることがわかります。ただし、ここでは $0\lt x \leqq 1$ の場合しか示していませんが、実際には $-1\lt x\leqq 1$ の区間で成り立ちます。
おわりに
近似式を拡張し、テイラー展開まで見ました。ここで見た内容は、大学数学で詳しくやりますが、内容を限定した形で入試に出ることはあります。例えば、【発展】自然対数の底eが無理数であることの証明#気象大学校2023年度の内容は、途中までは $f(x)=e^x$ としたときのテイラーの定理を示す内容となっています。この問題の背景には、テイラーの定理やテイラー展開があることがわかります。