【導入】行列とつるかめ算

ここでは、数学の一分野である「行列」の導入として、つるかめ算について考えていくことにします。

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つるかめ算の内容

つるかめ算とは、次のような問題です。中学入試、中学での連立方程式の問題、SPIなどで出題されることがあるので、見たことがある人も多いでしょう。

例題
ツルとカメが合わせて10匹、足の数が合わせて32本であるとき、ツルとカメはそれぞれ何匹いますか。

僕はこうした問題を見るたびに「足の数が分かってて、ツルとカメの数がわからないってどういう状況?」と思うのですが、そういうツッコミは今は置いておきましょう。

解き方はいろいろありますが、ここでは、連立方程式を使って解いてみます。ツルが $x$ 匹、カメが $y$ 匹いたとします(以下、両方とも”匹”で数えることにします)。合計で10匹いるので、\[ x+y=10 \]という式が成り立ちます。また、足の合計数が32本だとわかっています。ツルの足は2本でカメの足は4本だから、\[ 2x+4y=32 \]という式も成り立ちます。この2つが同時に成り立つので、
\begin{eqnarray}
\left\{
\begin{array}{l}
x + y = 10 \\
2x + 4y = 32
\end{array}
\right.
\end{eqnarray}という連立方程式を解けばいいですね。1つ目の式を4倍すると、\[ 4x+4y=40 \]という式になります。これから2つ目の式を引くと\[ 2x=8 \]が得られるので、 $x=4$ であることがわかります。また、1つ目の式から $y=6$ と求められます。よって、ツルは4匹、カメが6匹いる、ということがわかりました。

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行列の導入

先ほどの例題を解く途中で連立方程式が出てきましたが、この連立方程式の中で「つるかめ算」の本質的な部分というのはどこになるでしょうか。

$x,y$ はどうでしょう。これらの値を求めることがゴールではありますが、 $x,y$ という文字自体が本質的だ、とはいえないでしょう。自分で好きに導入した文字ですしね。別に、 $a,b$ でもいいし、 $m,n$ でもいいです。別の文字に変えたところで、特に何も変わりません。

右辺にある $10$ と $32$ はどうでしょうか。これらは、全部で10匹、全部で32本、というのを表していて、ツルとカメの数が変われば変わりうる数字です。ここをいじると答えは変わってきますが、ツルとカメのことを考えていることには変わりないでしょう。

しかし、 $x,y$ の係数だけはちょっと違います。特に、 $2x+4y$ の $2,4$ という数字は、足の本数です。ここが、例えば $8,10$ と変わってしまえば、もはやツルとカメの話をしているとはいえないでしょう。タコとイカの話にでも変わってしまった感じがします。名前も、「たこいか算」にすべきでしょう。問題の根幹が変わってしまいます。

こうして見てみると、つるかめ算の本質的な部分は、連立方程式の左辺に出てくる係数であると考えられるでしょう。この係数だけを抜き出して、次のように書いてみます。
\begin{pmatrix} 1 & 1 \\ 2 & 4 \end{pmatrix}このように、数字を長方形や正方形となるように縦横に並べて、カッコでまとめたものを、行列(martix) といいます。

つるかめ算について調べること(例えば解の公式を求めることなど)は、上で書いた行列を調べることと、本質的には同じになります。文字がなくなり、本質的な部分に、よりフォーカスできるようになりました。行列を考える目的には、連立方程式を調べやすくするため、ということが含まれています。

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連立方程式を行列を用いて表現する

もう少し行列と連立方程式について見ていきましょう。先ほどの問題の途中で
\begin{eqnarray}
\left\{
\begin{array}{l}
x + y = 10 \\
2x + 4y = 32
\end{array}
\right.
\end{eqnarray}という連立方程式が出てきました。そして、この左辺にある係数だけを抜き出して
\begin{pmatrix} 1 & 1 \\ 2 & 4 \end{pmatrix}と並べて書き、行列を導入しました。よく見ると、連立方程式の右辺も、数字が縦に並んでいます。ここも、次のように書いてみましょう。
\begin{pmatrix} 10 \\ 32 \end{pmatrix}これも、行列の1種です。数字が1列に並んだ縦長の長方形の場合もあるんですね。

ここまでくると、 $x,y$ もついでに並べて書いてみたくなります。右辺の行列表現にならい、縦に並べてみます。また、一般に、文字より係数の方が前に来るので、次のように書いてみましょう。
\begin{eqnarray}
\begin{pmatrix} 1 & 1 \\ 2 & 4 \end{pmatrix}\begin{pmatrix} x \\ y \end{pmatrix}
=\begin{pmatrix} 10 \\ 32 \end{pmatrix}
\end{eqnarray}実はこれが、行列による連立方程式の表現になります。この表記は、行列について学んでいくとわかりますが、連立方程式と同じ内容を表すことになります。

名前が紛らわしいですが、日常で使う「行列」と数学の世界で使う「行列」は意味が違うので注意しましょう。

ここまでの内容を振り返ると、連立方程式を表現するために、係数だけを抜き出して行列にし、右辺も行列にして、残った変数の部分も行列にしたのでした。ただ、逆に、行列で書いたものから連立方程式に戻れるようにもしたいですね。そう考えると、左辺にある
\begin{eqnarray}
\begin{pmatrix} 1 & 1 \\ 2 & 4 \end{pmatrix}\begin{pmatrix} x \\ y \end{pmatrix}
\end{eqnarray}は、次のように変形できればうれしいですね。
\begin{eqnarray}
\begin{pmatrix} x+y \\ 2x+4y \end{pmatrix}
\end{eqnarray}このように変形できるとするならば、行列を2つくっつけたものは、次のように計算できるべきでしょう。記号や文字には何かの数字が入ります。
\begin{eqnarray}
\begin{pmatrix} \diamondsuit & \heartsuit \\ \clubsuit & \spadesuit \end{pmatrix}\begin{pmatrix} x \\ y \end{pmatrix}
=\begin{pmatrix} \diamondsuit x +\heartsuit y \\ \clubsuit x +\spadesuit y \end{pmatrix}
\end{eqnarray}右辺は、幅が広がっていますが、上下に数字が1つずつ並んでいる状態です。例えば、上側の数字には $\diamondsuit x +\heartsuit y$ を計算した結果があらわれます。行列について学んでいくと後で見ることになりますが、これが行列の積になります。少し複雑な式になっていますが、連立方程式との対応で考えると、それほど受け入れがたいものではないでしょう。

左側の行列の1行目にある白文字は掛けた後の1行目に、2行目の黒文字は掛けた後の2行目にあらわれていることに注目すれば、少しは見やすくなると思います。

わざわざ変わった式で行列の積を定義するメリットは、もう一度式をよく見てみるとわかるかもしれません。
\begin{eqnarray}
\begin{pmatrix} 1 & 1 \\ 2 & 4 \end{pmatrix}\begin{pmatrix} x \\ y \end{pmatrix}
=\begin{pmatrix} 10 \\ 32 \end{pmatrix}
\end{eqnarray}連立方程式での表現と比較すると、行列の積で表現したものは、係数の部分と変数の部分とがきれいに別れていることがわかるでしょう。連立方程式は、係数と変数が混在していて扱いづらいですが、行列で連立方程式の内容を表せば、係数と変数の部分が分離するので、考えやすくなるんですね。特に、変数の種類が増えてきたときには、見やすくなる → 扱いやすくなる → 考えやすくなる、ということで、大きなメリットとなります。

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行列は世界を変換するもの

最後に、連立方程式を行列の式で表したものを見ながら、変換について考えてみましょう。
\begin{eqnarray}
\begin{pmatrix} 1 & 1 \\ 2 & 4 \end{pmatrix}\begin{pmatrix} x \\ y \end{pmatrix}
=\begin{pmatrix} 10 \\ 32 \end{pmatrix}
\end{eqnarray}この左辺にある $x,y$ は、ツルとカメの数を表していました。一方、右辺の $10,32$ は、全体の数と足の数を表していました。全体の数というのは、頭の数ともいえるので、右辺は頭と足の数を表している、と言うこともできます。

右辺の世界では、頭と足の数だけが重要で、ツルとカメが何匹いるかは知ったこっちゃない、とも言えます。どんな世界かはわかりませんが、帽子と靴だけを売ってる人の世界なのかもしれません。なんにせよ、ツルとカメの数は気にしない世界です。一方で、左辺はツルとカメの数を知っておきたい世界です。そして、この2つの世界を
\begin{pmatrix} 1 & 1 \\ 2 & 4 \end{pmatrix}という行列が橋渡しをしている、「ツルとカメの世界」を「頭と足の世界」に変換している、と考えることができます。

一般に、行列は、ある世界を別の世界に変換するためのツール、と考えることができます。しかも、複数のものから複数のものへの変換を表すことができます。変換するためのツールとして行列を用いる場面は、

  • 回転移動する前の世界(座標)から回転後の世界への変換
  • ある時刻での状態から1秒後の状態への変換
  • (最近流行りのディープラーニングでは)あるニューラルネットワークの層から、次の層への変換

など、たくさんあります。

ツルとカメの世界から、頭と足の世界に変換する方法が分かれば、その逆の変換も知りたくなるのは自然なことです。こうした逆の変換を表す「逆行列」も、行列の世界では重要なトピックの1つです。逆行列についても、行列について学んでいく中で、詳しく見ていくことになります。

おわりに

ここでは、つるかめ算を用いて、行列をなぜ導入したいか、導入するとどういうことになるか、などについて書いてきました。学び始めの頃は、「なぜこんなことをやるんだ?」と思うことが多いかもしれませんが、まず1つの動機としては「連立方程式について調べたい」というのがあることを理解しておくと手助けになると思います。