【基本】ベクトルの内積
ここでは、ベクトルの内積について見ていきます。
ベクトルの内積の導入
ベクトルを学ぶ前は、縦と横の2つの軸を使う(つまり、 x 軸と y 軸を使う)ことしかできませんでしたが、ベクトルを学べば、自由に軸を導入することができます。平行でない2つの軸を使えば、どんなベクトルでも1通りに分解できることから、これらを新しい軸のように扱えるんですね(参考:【基本】ベクトルの分解)。
今まで使っていた、 x 軸と y 軸は、垂直に交わっていますが、ベクトルの世界では、軸として用いている2つのベクトルが、垂直に交わっているとは限りません。そのため、これらがどれだけ同じような方向を向いているか、という情報があると便利です。
ベクトルの向きは、図をかく以外に、成分を使って考えることもできます(参考:【基本】ベクトルの成分)。そのため、2つのベクトルを成分で表示して向きを比べる、というやり方も考えられますが、もっと直接的に、「2つのベクトルの類似度」のようなものが、パッとわかった方が便利です。
ベクトルの内積は、この「類似度」を表すものです。同じ方向ならマックス、全く逆の方向ならミニマム、となっているとわかりやすいですよね。そのため、2つのベクトルからできる角の $\cos$ を使うのがいいですね。 $0^{\circ}$ なら $1$ で、 $180^{\circ}$ なら $-1$ です。その間の角は、この間の値をとります(参考:【基本】よく出る0度から180度までの三角比の値)。この値が使えそうです。
「内積」という言葉から考えると、ベクトルとベクトルを掛けるのかな、と思うかもしれませんが、向きがあるので普通の掛け算のようにはいきません。実際には「類似度」を表すものだと考えてください。
以上を踏まえて、以下ではベクトルの内積の定義を見ていきます。
ベクトルの内積
$\vec{0}$ でない2つのベクトル $\vec{a}$, $\vec{b}$ があるとします。
$\mathrm{O}$ を基準とし、 $\overrightarrow{ \mathrm{ OA } }=\vec{a}$, $\overrightarrow{ \mathrm{ OB } }=\vec{b}$ となるように、 A, B をとります。また、 $\angle \mathrm{ AOB }$ を $\theta$ ( $0^{\circ} \leqq \theta \leqq 180^{\circ}$ )とします。
この $\theta$ のことを、 $\vec{a}$ と $\vec{b}$ のなす角、といいます。等しいベクトルはすべて平行なので、基準の点 $\mathrm{O}$ をどこに移動しても、なす角はもちろん同じになります。
このとき、 $|\vec{a}||\vec{b}|\cos\theta$ のことを、 $\vec{a}$ と $\vec{b}$ の内積(inner product) と呼び、 $\vec{a} \cdot \vec{b}$ で表します。なお、間にある「 $\cdot$ 」は省略できません。また、数の掛け算とも違うので、 $\cdot$ を $\times$ と書いてもいけません。
つまり、内積は、ベクトルの長さと角度(向きの類似度)によって決まる値だ、ということです。同じ長さのベクトルであれば、内積は、同じ向きのときに最大、反対の向きのときに最小、となります。
なお、どちらかが $\vec{0}$ なら、内積は $0$ とします。このときの、なす角は考えません。
また、内積は、数です。内積自体は向きを持ったものではないため、ベクトルではありません。注意しましょう。
具体的に内積を計算してみましょう。
上のような場合、長さと角度が分かっているので、
\begin{eqnarray}
\vec{a} \cdot \vec{b}
&=&
|\vec{a}||\vec{b}|\cos\theta \\[5pt]
&=&
2\cdot3\cdot \left(-\frac{1}{2}\right) \\[5pt]
&=&
-3
\end{eqnarray}となります。
これだけを見ると、内積を考える「良さ」があまりわかりません。しかし、将来、「ベクトルの成分から内積を求め、なす角を求める」「垂直であることを示すために、内積が $0$ であることを示す」などといった使い方を見ます。内積は2つのベクトルのなす角の情報を持ったものなので、「角度」に関する図形問題などで応用する場面がたくさん出てきます。
おわりに
ここでは、ベクトルの内積について見てきました。はじめのころは、これが何を意味しているのか、考えてどうなるのかがわかりにくいです。しかし、将来、図形問題などで大活躍しますので、そのときに便利さが実感できると思います。