京都大学 理学部特色入試 2017年度 第1問 解説
(2016年11月に行われた特色入試の問題です。2017年に行われた特色入試の問題はこちら)
問題編
問題
r を $\displaystyle 0\lt r \leqq \frac{1}{2}$ を満たす有理数とする。 xy 平面上の点列 $\mathrm{ P }_1,$ $\mathrm{ P }_2,$ $\mathrm{ P }_3, \cdots $ を
\begin{eqnarray} \overrightarrow{ \mathrm{ OP }_1 } &=& (1,0) \\ \overrightarrow{ \mathrm{ OP }_2 } &=& (0,1) \\ \overrightarrow{ \mathrm{ OP }_{n+2} } &=& \{ 2\cos(\pi r) \}\overrightarrow{ \mathrm{ OP }_{n+1} } -\overrightarrow{ \mathrm{ OP }_n } \quad (n=1,2,3,\cdots)\\ \end{eqnarray}で定める。以下の条件 (A) を満たすような r をすべて求めよ。(A) すべての自然数 n について、 $\left| \overrightarrow{ \mathrm{ OP }_n } \right| \geqq 1$ が成立する。
考え方
3項漸化式だと考えれば、一般項を求めることができます。また、特性方程式もきれいな形で解けます。
ただ、そこから条件(A)を使いやすい形にもっていくのが大変です。三角関数で出てくる式を駆使して変形していきます。
$r=\frac{1}{3}$ や $r=\frac{1}{4}$ で実験をしても成り立ってしまうし、満たさない例を見つけるのが大変です。答えの予想がしづらく、ゴールまでたどり着くのは難しいです。
解答編
問題
r を $\displaystyle 0\lt r \leqq \frac{1}{2}$ を満たす有理数とする。 xy 平面上の点列 $\mathrm{ P }_1,$ $\mathrm{ P }_2,$ $\mathrm{ P }_3, \cdots $ を
\begin{eqnarray} \overrightarrow{ \mathrm{ OP }_1 } &=& (1,0) \\ \overrightarrow{ \mathrm{ OP }_2 } &=& (0,1) \\ \overrightarrow{ \mathrm{ OP }_{n+2} } &=& \{ 2\cos(\pi r) \}\overrightarrow{ \mathrm{ OP }_{n+1} } -\overrightarrow{ \mathrm{ OP }_n } \quad (n=1,2,3,\cdots)\\ \end{eqnarray}で定める。以下の条件 (A) を満たすような r をすべて求めよ。(A) すべての自然数 n について、 $\left| \overrightarrow{ \mathrm{ OP }_n } \right| \geqq 1$ が成立する。
解答
$\overrightarrow{ p_n } = \overrightarrow{ \mathrm{ OP }_n }$ とおく。 $n=1,2$ のときは常に $\left| \overrightarrow{ p_n } \right| \geqq 1$ が成り立つので、以下では $n\geqq 3$ の場合のみ考える。
\[ x^2 = \{ 2\cos(\pi r) \}x -1 \]の解は
\begin{eqnarray}
x
&=&
\cos(\pi r)\pm\sqrt{\cos^2(\pi r)-1} \\
&=&
\cos(\pi r)\pm\sqrt{-\sin^2(\pi r)} \\
&=&
\cos(\pi r)\pm i\sin(\pi r) \\
\end{eqnarray}である。なお、 r の範囲から、 $\sin(\pi r) \gt 0$ であることを用いた。また、特に $\sin(\pi r) \ne 0$ なので、この二次方程式は異なる虚数解を持つことがわかる。
$\beta=\cos(\pi r)+i\sin(\pi r)$, $\alpha=\cos(\pi r)-i\sin(\pi r)$ とすると、与えられた条件から、次の2つの式が成り立つ。
\begin{eqnarray}
\left\{
\begin{array}{l}
\overrightarrow{ p_{n+2} } -\alpha \overrightarrow{ p_{n+1} } &=& \beta ( \overrightarrow{ p_{n+1} } -\alpha \overrightarrow{ p_n } ) \\
\overrightarrow{ p_{n+2} } -\beta \overrightarrow{ p_{n+1} } &=& \alpha ( \overrightarrow{ p_{n+1} } -\beta \overrightarrow{ p_n } ) \\
\end{array}
\right.
\end{eqnarray}これらの漸化式を解いて、次の2つの式が得られる。
\begin{eqnarray}
\left\{
\begin{array}{l}
\overrightarrow{ p_{n+1} } -\alpha \overrightarrow{ p_{n} } &=& \beta^{n-1} ( \overrightarrow{ p_2 } -\alpha \overrightarrow{ p_1 } ) \\
\overrightarrow{ p_{n+1} } -\beta \overrightarrow{ p_{n} } &=& \alpha^{n-1} ( \overrightarrow{ p_2 } -\beta \overrightarrow{ p_1 } ) \\
\end{array}
\right.
\end{eqnarray}辺々引くと、次の式が得られる。
\begin{eqnarray}
(\beta -\alpha)\overrightarrow{ p_{n} }
&=&
(\beta^{n-1} -\alpha^{n-1})\overrightarrow{ p_2 } -(\alpha\beta^{n-1} -\beta\alpha^{n-1}) \overrightarrow{ p_1 }
\end{eqnarray}
ここで、 $\beta -\alpha=2i\sin(\pi r)$ であり、ド・モアブルの定理より
\begin{eqnarray}
\beta^{n-1} -\alpha^{n-1}
&=&
2i\sin\{\pi (n-1) r\}
\end{eqnarray}と
\begin{eqnarray}
\alpha\beta^{n-1} -\beta\alpha^{n-1}
&=&
2i\sin\{\pi (n-2) r\}
\end{eqnarray}が得られる。これらを先ほどの式に代入すると
\begin{eqnarray}
\overrightarrow{ p_{n} }
&=&
\frac{ \sin\{\pi (n-1) r\}\overrightarrow{ p_2 } -\sin\{\pi (n-2) r\}\overrightarrow{ p_1 } }{\sin(\pi r)}
\end{eqnarray}が得られる。 $\overrightarrow{ p_1 }$ と $\overrightarrow{ p_2 }$ は直交するので、
\begin{eqnarray}
\left| \overrightarrow{ p_{n} } \right|^2
&=&
\frac{ \sin^2 \{\pi (n-1) r\} +\sin^2 \{\pi (n-2) r\} }{\sin^2(\pi r)}
\end{eqnarray}が得られる。
これが1以上になるときを調べるため、 $\sin^2 \{\pi (n-1) r\} +\sin^2 \{\pi (n-2) r\} -{\sin^2(\pi r)}$ を計算していく。
\begin{eqnarray}
& &
\sin^2 \{\pi (n-1) r\} +\sin^2 \{\pi (n-2) r\} -{\sin^2(\pi r)} \\[5pt]
&=&
\frac{ 1-\cos\{ 2\pi (n-1) r\} }{2} +\frac{ 1-\cos\{ 2\pi (n-2) r\} }{2} -\frac{ 1-\cos ( 2\pi r ) }{2} \\[5pt]
&=&
\frac{1}{2} \left\{ 1 +\cos (2\pi r) -\cos\{ 2\pi (n-1) r\} -\cos\{ 2\pi (n-2) r\} \right\} \\[5pt]
&=&
\frac{1}{2}
\left( 2\cos^2 (\pi r)
-2\cos\{ \pi (2n-3) r\} \cos( \pi r )
\right) \\[5pt]
&=&
\cos (\pi r)
\left( \cos (\pi r) -\cos\{ \pi (2n-3) r\} \right) \\[5pt]
&=&
\cos (\pi r)
\times (-2) \sin \{ \pi (n-1) r \} \sin \{ \pi (-n+2) r \} \\[5pt]
&=&
2 \cos (\pi r) \sin \{ \pi (n-1) r \} \sin \{ \pi (n-2) r \} \\[5pt]
\end{eqnarray}ここで、 $\displaystyle 0\lt r \leqq \frac{1}{2}$ なので、 $\cos (\pi r)$ は正である。よって、条件(A)は、次の条件(B)と同値である。
(B) すべての自然数 n について、 $\sin \{ \pi (n-1) r \} \sin \{ \pi (n-2) r \} \geqq 0$ が成立する。
以下では、この条件について考える。
r は正の有理数なので、互いに素な自然数 $a,b$ を用いて、 $\displaystyle r=\frac{b}{a}$ とかける。条件より $a\geqq 2$ である。
$b\ne 1$ とする。 r の条件から、 $a\geqq 3$ である。
このとき、次の $a-1$ 個の数字について考える。\[ \frac{b}{a}, \frac{2b}{a}, \cdots \frac{(a-1)b}{a} \]$b\geqq 2$ なので、この数字の中に次を満たす $a-2$ 以下の自然数 m が存在する。\[ \frac{mb}{a} \leqq 1, \quad \frac{(m+1)b}{a} \gt 1 \]ここで、$\displaystyle \frac{mb}{a} = 1$ とすると、 $a=mb$ が成り立つ必要があるが、 a と b は互いに素で $1\leqq m\lt a$ であるため、このようなことは起こらない。よって、この m に対しては、次が成り立つ。\[ \frac{mb}{a} \lt 1, \quad \frac{(m+1)b}{a} \gt 1 \]これから、 $n-2=m$ とすると、(B)が成り立たないことがわかる。
次に、 $b=1$ とする。もしある自然数 n に対して $\displaystyle \sin \frac{\pi (n-1)}{a}$ と $\displaystyle \sin \frac{\pi (n-2)}{a}$ が異符号だとすると、\[ \frac{\pi (n-2)}{a} \lt \pi N \lt \frac{\pi (n-1)}{a} \]を満たす自然数 N が存在しないといけない。これは $n-2 \lt aN \lt n-1$ と同値であるが、 $n-1$ と $n-2$ の間に整数はないので、このようなことは起こらない。よって、このとき、(B)が成り立つ。
以上から、求める r は $\displaystyle \frac{1}{a}$ (a は2以上の自然数)となる。
解説
3項漸化式だと考えて、一般項を求めてみようという発想は浮かびやすいです。一般項が書ければ、条件(A)を考えやすくなりますからね。しかも、特定方程式の解がきれいな形で求められます。ド・モアブルの定理を使って、一般項を求める所まではたどり着きたいです。
一般項が求められるので、条件(A)を分かりやすい条件に言い換えるのですが、ここが少し大変です。半角の公式や和積の公式、倍角の公式などを駆使して、積に関する条件に変形していきます。不等式に関する条件なので、積に関する条件にするとわかりやすくなります。
上の解答の条件(B)のように言い換えた後も難しいですね。角度が $\pi r$ 増えたときの $\sin$ の符号の変化に着目し、求める条件が「分子が1のとき」と気づかなくてはいけません。例えば、 $r=\frac{1}{5}$ なら、 $\sin\{\pi(n-1)r\}$ と $\sin\{\pi(n-2)r\}$ は「同符号」か「片方が0」のときしかないので、積は0以上となります。一方、 $r=\frac{2}{5}$ なら、 $\sin\frac{4}{5}\pi$ と $\sin\frac{6}{5}\pi$ というように積がマイナスになるケースが出てきます。
図をかいて考えればひらめくかもしれませんが、少し気付きにくいです。気づいたとしても、解答に書くのは大変です。
いろんな分野(ベクトル、数列、複素数、三角関数)が混じった問題であり、計算力と発想が必要な難しい問題です。しかし、去年の1番に比べれば易しめです。