【導入】ベクトルを考える意味について
ここでは、ベクトルを学ぶと、どういういいことがあるかについて見ていきます。
ベクトルの発想
図形と方程式の分野では、図形の問題を数式で考えることがありました。図形の問題を解くには、補助線をひいたり図形的なセンスが必要だったりしましたが、数式なら計算で頑張ることができます。
例えば、垂心の存在(三角形の各辺の垂直二等分線が1点で交わること)の証明は、図形的に考えれば「【標準】三角形の垂心(なぜ3つの垂線は1点で交わるか)」のようになり、座標を使って考えれば「【標準】座標を使って三角形の垂心を考える」のようになります。解き方のきれいさは前者の方が上かもしれませんが、解きやすさは後者の方が上ではないでしょうか。
ただ、座標を使って計算する場合も、座標のとり方を工夫しないと計算が大変になります。いくら「計算を頑張ればできる」といっても、文字が大量にあって計算が大変であれば、あまりやる気が起きませんよね。
なぜ計算が大変になってしまうのか。その原因は、1つの点を表すのに x 座標と y 座標の2つの数字がいることや、斜めの線が出てくるたびに直線の方程式を求めなければいけないこと、などがあげられます。
頂点しか使わないのに「原点」が基準になっている、三角形や平行四辺形のような「斜めの線」が出てくる場面でも、縦と横を基準にした「軸」を使っている、これらがめんどくささの原因といえるでしょう。
なので、これを解決する方法の1つとして、「はじめから好きなところを基準にして、斜めの軸を使えばいいじゃん」というのがあります。ベクトルは、この考え方とよくマッチしています。
教科書では、「ベクトルは、向きと大きさを持ったもの」という説明から始まることが多いです。それは確かにそうなんですが、「辺をそのまま基準として扱うためのもの」と考えたほうが、ベクトルを考えるメリットをよく感じられると思います。実際、数学の問題では、ベクトルは図形問題を解くときによく用いられます。
ベクトルによって証明が簡潔になる例
ベクトルを使えばどれだけ話が簡潔になるかを、具体例で見てみましょう。ベクトルについて何も知らない状態でいきなりこれを見ても内容は理解できないかもしれませんが、問題ありません。話がスッキリするんだな、というのがわかればOKです。
上で挙げた、垂心の存在について考えてみましょう。三角形 ABC があり、 A, B から対辺に下した垂線の交点を O とします。
このとき、 CO と AB が垂直に交われば、3本の垂線が1点で交わり、 O が垂心であると言えます。
$\angle \mathrm{ C }$ が直角のときは、 O と C は一致するので、垂心が存在することは明らかです。以下では直角ではないとしましょう。直角でないときは、 O と C は一致しません。
OA と BC が垂直に交わることをベクトルで書くと\[ \overrightarrow{ \mathrm{ OA } } \cdot \overrightarrow{ \mathrm{ BC } } = 0 \]となります(後で学びます)。 OB と CA が垂直に交わることをベクトルで書くと\[ \overrightarrow{ \mathrm{ OB } } \cdot \overrightarrow{ \mathrm{ CA } } = 0 \]となります。この2つを辺々足して
\begin{eqnarray}
\overrightarrow{ \mathrm{ OA } } \cdot \overrightarrow{ \mathrm{ BC } }
+\overrightarrow{ \mathrm{ OB } } \cdot \overrightarrow{ \mathrm{ CA } }
&=&
0 \\[5pt]
-\overrightarrow{ \mathrm{ OA } } \cdot \overrightarrow{ \mathrm{ OB } }
+\overrightarrow{ \mathrm{ OA } } \cdot \overrightarrow{ \mathrm{ OC } } \\
\quad
-\overrightarrow{ \mathrm{ OB } } \cdot \overrightarrow{ \mathrm{ OC } }
+\overrightarrow{ \mathrm{ OB } } \cdot \overrightarrow{ \mathrm{ OA } }
&=&
0 \\[5pt]
\end{eqnarray}\begin{eqnarray}
\overrightarrow{ \mathrm{ OA } } \cdot \overrightarrow{ \mathrm{ OC } }
-\overrightarrow{ \mathrm{ OB } } \cdot \overrightarrow{ \mathrm{ OC } }
&=&
0 \\[5pt]
\overrightarrow{ \mathrm{ OC } } \cdot \overrightarrow{ \mathrm{ BA } }
&=&
0 \\[5pt]
\end{eqnarray}となり、 OC と AB が垂直に交わることがわかります。
内積について学んでいないと意味が分からないと思いますが、とにかく上の内容だけで証明が終わっています。2つの垂線の交点を基準にとったこと、基準からの位置を簡潔に表現できること、垂直に交わることが内積で表現できること、などから、図形的な証明、座標を使った証明に比べて、内容がかなりスッキリします。
ベクトルを使えばいつも簡潔になる、というわけではないですが、上のように議論がかなりスッキリすることもあります。
おわりに
ここでは、ベクトルを考える意味について見てきました。基準や軸を好きなように選ぶことで、座標を使っていたときのデメリット(計算が複雑になりやすいこと)を避けることができます。今までにない新しい概念なので、少しずつ慣れていくようにしましょう。