【基本】零ベクトル
ここでは、零ベクトルについて見ていきます。
零ベクトル
少し不思議な計算ですが、 $\overrightarrow{ \mathrm{ AB } }+\overrightarrow{ \mathrm{ BA } }$ はどうなるでしょうか。【基本】ベクトルの足し算で見た、しりとりのような計算から、これは $\overrightarrow{ \mathrm{ AA } }$ となります。
また、 $\overrightarrow{ \mathrm{ AB } }-\overrightarrow{ \mathrm{ AB } }$ も、【基本】ベクトルの引き算で見たように、 $\overrightarrow{ \mathrm{ AB } }+\overrightarrow{ \mathrm{ BA } }$ と変形でき、これも $\overrightarrow{ \mathrm{ AA } }$ となります。
このベクトルには大きさがありません。「ベクトルの世界でのゼロ」という意味で、零ベクトル(れいベクトル, zero vector)といいます。なお、口頭では「ゼロベクトル」と呼ばれることも多いです。
また、数式上では、 $\vec{0}$ と書きます。つまり、\[ \overrightarrow{ \mathrm{ AB } }+\overrightarrow{ \mathrm{ BA } }=\vec{0} \]などと書きます。
零ベクトルは大きさがないので、向きも考えません。また、どの点 A に対しても、 $\overrightarrow{ \mathrm{ AA } }=\vec{0}$ が成り立ちます。
逆ベクトルと零ベクトル
逆ベクトルと零ベクトルについては、次の式が成り立ちます。\[ \vec{a}-\vec{a}=\vec{0} \]$\overrightarrow{ \mathrm{ OA } }=\vec{a}$ とすると、
\begin{eqnarray}
\vec{a}-\vec{a}
&=&
\overrightarrow{ \mathrm{ OA } }-\overrightarrow{ \mathrm{ OA } }\\
&=&
\overrightarrow{ \mathrm{ AA } }\\
&=&
\vec{0}
\end{eqnarray}となることからわかります。
また、零ベクトルについて、次の式が成り立ちます。\[ \vec{a}+\vec{0}=\vec{a} \]これも、 $\overrightarrow{ \mathrm{ OA } }=\vec{a}$ とすると、
\begin{eqnarray}
\vec{a}+\vec{0}
&=&
\overrightarrow{ \mathrm{ OA } }+\overrightarrow{ \mathrm{ AA } }\\
&=&
\overrightarrow{ \mathrm{ OA } }\\
&=&
\vec{a}
\end{eqnarray}となることからわかります。
零ベクトルが出てくる例
例えば、三角形 ABC に対して\[ \overrightarrow{ \mathrm{ AB } }+\overrightarrow{ \mathrm{ BC } }+\overrightarrow{ \mathrm{ CA } } \]がどうなるかを計算してみましょう。これはしりとりの形になっているので、次のように変形できます。
\begin{eqnarray}
& &
\overrightarrow{ \mathrm{ AB } }+\overrightarrow{ \mathrm{ BC } }+\overrightarrow{ \mathrm{ CA } } \\
&=&
\overrightarrow{ \mathrm{ AC } }+\overrightarrow{ \mathrm{ CA } } \\
&=&
\overrightarrow{ \mathrm{ AA } } \\
&=&
\vec{0}
\end{eqnarray}このように、引き算が出てこないような状況でも、結果が $\vec{0}$ となることもあります。
おわりに
ここでは、零ベクトルとその性質について見ました。ベクトルを足し引きした結果は、必ずベクトルになります。答えが零ベクトルだった場合に、 $0$ の上に矢印をかくのを忘れないようにしましょう。