【基本】ベクトルの内積の性質
ここでは、ベクトルの内積に関する計算でよく使う性質をまとめてみていきます。性質を知って使えるようになることも重要ですが、ここでは、その性質を持つことをどのように示すか、ということに注意してみていきましょう。
交換法則
まずは、内積の順番を入れ替えたときを考えてみましょう。
$\vec{0}$ でない2つのベクトル $\vec{a}$, $\vec{b}$ のなす角を $\theta$ としたとき、このベクトルの内積 $\vec{a}\cdot\vec{b}$ を $|\vec{a}||\vec{b}|\cos\theta$ で定義するんでしたね(参考:【基本】ベクトルの内積)。
$\vec{b}$, $\vec{a}$ のなす角も、もちろん $\theta$ です。また、絶対値はただの実数なので、掛ける順番を変えても同じです。なので、上の内積は\[ \vec{b}\cdot\vec{a}=|\vec{b}||\vec{a}|\cos\theta \]と等しいことがわかります。
また、どちらかが $\vec{0}$ なら、内積は $0$ です。
以上から、順番を入れ替えても内積が変わらないことがわかります。このことを交換法則といいます。
分配法則
続いて、2つのベクトルの和とベクトルとの内積について見ていきましょう。
$(\vec{a}+\vec{b})\cdot \vec{c}$ という内積があったとします。普通の計算のように考えれば、これは\[ \vec{a}\cdot\vec{c} +\vec{b}\cdot\vec{c} \]となるんじゃないか、と予想できます。実際にそうなるか、確かめてみましょう。
こうした計算は、成分を使うと考えやすくなります。 $\vec{a}=(a_1,a_2)$, $\vec{b}=(b_1,b_2)$, $\vec{c}=(c_1,c_2)$ とします。【基本】ベクトルの成分と演算や【基本】ベクトルの内積と成分の内容を使うと
\begin{eqnarray}
& &
(\vec{a}+\vec{b})\cdot \vec{c} \\[5pt]
&=&
(a_1+b_1,a_2+b_2)\cdot (c_1,c_2) \\[5pt]
&=&
(a_1+b_1)c_1+(a_2+b_2)c_2 \\[5pt]
&=&
(a_1c_1+a_2c_2)+(b_1c_1+b_2c_2) \\[5pt]
&=&
\vec{a}\cdot\vec{c} +\vec{b}\cdot\vec{c} \\[5pt]
\end{eqnarray}となります。確かに、成り立ちますね。
同じように計算すれば、\[ \vec{a}\cdot (\vec{b}+\vec{c}) = \vec{a}\cdot\vec{b} +\vec{a}\cdot\vec{c} \]も確かめることができます。
これらは、分配法則とよばれています。
\begin{eqnarray} (\vec{a}+\vec{b})\cdot \vec{c} &=& \vec{a}\cdot\vec{c} +\vec{b}\cdot\vec{c} \\[5pt] \vec{a}\cdot (\vec{b}+\vec{c}) &=& \vec{a}\cdot\vec{b} +\vec{a}\cdot\vec{c} \end{eqnarray}
定数倍
次に、ベクトルの定数倍と内積が組み合わさったものを見てみましょう。
$(k\vec{a})\cdot\vec{b}$ について考えましょう。これは、 $k(\vec{a}\cdot\vec{b})$ と等しくなるんじゃないか、と予想できますね。これも成分で考えるとわかりやすいです。先ほどと同じ記号を使いまわすと
\begin{eqnarray}
& &
(k\vec{a})\cdot\vec{b} \\[5pt]
&=&
(ka_1,ka_2)\cdot(b_1,b_2) \\[5pt]
&=&
ka_1b_1+ka_2b_2 \\[5pt]
&=&
k(a_1b_1+a_2b_2) \\[5pt]
&=&
k(\vec{a}\cdot\vec{b})
\end{eqnarray}となります。確かに成り立ちますね。同じようにすれば、 k が $\vec{a}$ ではなく $\vec{b}$ に掛かっていた場合、つまり、 $\vec{a}\cdot(k\vec{b})$ も同じ結果になることがわかります。
同じベクトル同士の内積
最後に、同じベクトル同士の内積を見ておきます。
$\vec{a}\cdot\vec{a}$ について考えてみましょう。自分と自分とのなす角は $0^{\circ}$ なので、これは、 $|\vec{a}|^2$ となります。成分で考えても、成り立つことがわかります。
よく考えれば当たり前ですが、結構使うところは多いです。
おわりに
ここでは、ベクトルの内積に関する性質について見てきました。どの性質も、その性質を持つこと自体は自然に感じられると思います。なので、これから計算で使っていく場合も、それほど抵抗なく使えるでしょう。ここでは、それらの性質を持つことは、内積の定義や、内積を成分で表現したもので示すことができる、ということをおさえておきましょう。