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京都大学 理学部特色入試 2016年度 第2問 解説

(2015年11月に行われた特色入試の問題です。2016年に行われた特色入試の問題はこちら

問題編

問題

 $0 \leqq x \leqq 1$ の範囲で定義された連続関数 $f(x)$ に対し、x が $0 \leqq x \leqq 1$ の範囲を動くときの $f(x)$ の最大値を $\displaystyle \max_{0 \leqq x \leqq 1}f(x)$ とおく。以下の設問に答えよ。

(1) $0 \leqq x \leqq 1$ の範囲で定義された狭義単調増加な連続関数 $f(x)$ に対し、以下の不等式が成立することを示せ。\[ \int_0^1|f(x)|dx \leqq 3 \max_{0 \leqq x \leqq 1} \left| \int_0^x f(t) dt \right| \]ただし、 $f(x)$ が狭義単調増加であるとは、「 $x\lt y$ ならば $f(x)\lt f(y)$ 」を満たすことをいう。

(2) 以下の条件(A)を満たすような実数 C は存在しないことを示せ。
 (A) $0 \leqq x \leqq 1$ の範囲で定義されたどのような連続関数 $f(x)$ に対しても、不等式\[ \int_0^1|f(x)|dx \leqq C \max_{0 \leqq x \leqq 1} \left| \int_0^x f(t) dt \right| \]が成立する。

考え方

抽象的な問題ですが、抽象的であるがゆえに使える道具が少ないので、解きやすいとも言えます。実際、2016年度の特色入試の中では、この問題が一番簡単です(この難易度で…)。

(1)は、狭義単調増加な連続関数なので、グラフは右肩上がりになります。x軸を横切るのは1回だけなので、その前後で左辺の絶対値が外れます。

絶対値を外したあとは、右辺が使える形に変形していくと、「3」という数字も出てきます。$f(x)$が常に正、常に負の場合を分けたくなりますが、特に分けなくても証明することはできます。

(2)は、具体的な反例を書くのが手っ取り早いです。左辺は、 $y=f(x)$ のグラフが x 軸を何度も横切る場合、どんどん面積が加算されていきます。一方、右辺は積分してから絶対値をつけているので、 x 軸を何度も横切った場合、 x 軸の上下にある部分の面積がどんどん相殺されていきます。

ということで、 x 軸を何度も横切るような例を考えればいいわけですね。 x 軸を何度も横切る折れ線や、三角関数を考えるのが自然です。ここでは、式を書きやすい三角関数で考えてみます。


解答編

問題

 $0 \leqq x \leqq 1$ の範囲で定義された連続関数 $f(x)$ に対し、x が $0 \leqq x \leqq 1$ の範囲を動くときの $f(x)$ の最大値を $\displaystyle \max_{0 \leqq x \leqq 1}f(x)$ とおく。以下の設問に答えよ。

(1) $0 \leqq x \leqq 1$ の範囲で定義された狭義単調増加な連続関数 $f(x)$ に対し、以下の不等式が成立することを示せ。\[ \int_0^1|f(x)|dx \leqq 3 \max_{0 \leqq x \leqq 1} \left| \int_0^x f(t) dt \right| \]ただし、 $f(x)$ が狭義単調増加であるとは、「 $x\lt y$ ならば $f(x)\lt f(y)$ 」を満たすことをいう。

解答

(1) $f(x)$ は狭義単調増加な連続関数なので、 $f(0) \lt 0$ かつ $f(1)\gt 0$ のときは、 $f(a)=0$ となる $0 \lt a \lt 1$ がただ1つ存在する。 $f(0) \geqq 0$ のときは、 $a=0$ 、 $f(1) \leqq 0$ のときは$a=1$ とする。

このとき、 $0 \lt x \lt a$ のときは $f(x)\leqq 0$ で、 $a \lt x \lt 1$ のときは $f(x)\geqq 0$ なので、
\begin{eqnarray} \int_0^1|f(x)|dx &=& \int_0^a|f(x)|dx + \int_a^1|f(x)|dx \\[5pt] &=& -\int_0^a f(x) dx + \int_a^1 f(x) dx \\[5pt] &=& -2\int_0^a f(x) dx + \int_0^1 f(x) dx \\[5pt] &\leqq& 2\left| \int_0^a f(x) dx \right| + \left| \int_0^1 f(x) dx \right| \\[5pt] &\leqq& 2 \max_{0 \leqq x \leqq 1} \left| \int_0^x f(t) dt \right| + \max_{0 \leqq x \leqq 1} \left| \int_0^x f(t) dt \right| \\[5pt] &=& 3 \max_{0 \leqq x \leqq 1} \left| \int_0^x f(t) dt \right| \end{eqnarray}となる。よって、与えられた不等式が成り立つ。

解答編 つづき

問題

(2) 以下の条件(A)を満たすような実数 C は存在しないことを示せ。
 (A) $0 \leqq x \leqq 1$ の範囲で定義されたどのような連続関数 $f(x)$ に対しても、不等式\[ \int_0^1|f(x)|dx \leqq C \max_{0 \leqq x \leqq 1} \left| \int_0^x f(t) dt \right| \]が成立する。

解答

(2) n を自然数とし、 $f_n(x)=\sin 2n\pi x$ とする。各 $f_n$ は、 $0 \leqq x \leqq 1$ の範囲で定義された連続関数である。

このとき、(A)の左辺は
\begin{eqnarray} \int_0^1|f_n(x)|dx &=& 2n\int_0^{\frac{1}{2n} } \sin 2n\pi x dx \\[5pt] &=& 2n\left[ -\frac{\cos 2n\pi x}{2n\pi} \right]_0^{\frac{1}{2n} } \\[5pt] &=& \frac{2}{\pi} \end{eqnarray}となる。

また、
\begin{eqnarray} \int_0^x f_n(t) dt &=& \left[ \frac{ -\cos 2n\pi t }{2n\pi} \right]_0^x \\[5pt] &=& \frac{ -\cos 2n\pi x + 1 }{2n\pi} \end{eqnarray}なので、\[\max_{0 \leqq x \leqq 1} \left| \int_0^x f_n(t) dt \right| = \frac{ 1 }{n\pi} \]となる。

以上から、(A)の不等式は、 $\displaystyle \frac{2}{\pi} \leqq \frac{ C }{n\pi}$ となるが、n は任意の自然数なので、これを満たす C はない。よって、(A)を満たす実数 C は存在しない。

解説

(1)の右辺の絶対値の外し方について場合分けすると、少し面倒な議論になります。x 軸より下の部分の面積と上の部分の面積の、どちらが大きいかで場合分けをすることになります。しかし、上の解答のように、もっと大胆に左辺を上から評価するほうが楽チンです。

(2)はそもそもこの不等式が何を表しているかを考えないといけません。x 軸を何度も横断するものを持ってくれば、それが反例になりそう、というのは、不等式の形から読み取る必要があります。一般の関数について、抽象的に示すのは難しいです。

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