京都大学 理学部特色入試 2016年度 第1問 解説
(2015年11月に行われた特色入試の問題です。2016年に行われた特色入試の問題はこちら)
問題編
問題
n を2以上の整数とする。原点 O を中心とした半径1の円周を n 等分する点を時計回りに $\mathrm{ P }_0,\mathrm{ P }_1.\cdots \mathrm{ P }_{n-1}$ とする。これら n 点から無作為に1点を選ぶ試行を独立に3回繰り返し、3点 P, Q, R を順に選ぶ。ただし、P, Q, R は重複を許して選び、どの n 点も同じ確からしさで選ぶものとする。 $0 \leqq j,k,l \leqq n-1$ に対し、P, Q, R がそれぞれ $\mathrm{ P }_j,\mathrm{ P }_k,\mathrm{ P }_l$ である確率を $p_{jkl}$ とする。3点 $\mathrm{ P }_j,\mathrm{ P }_k,\mathrm{ P }_l$ が異なるとき、三角形 $\mathrm{ P }_j\mathrm{ P }_k\mathrm{ P }_l$ の面積を $S_{jkl}$ とおく。また、3点 $\mathrm{ P }_j,\mathrm{ P }_k,\mathrm{ P }_l$ に重複があるとき、 $S_{jkl}=0$ とおく。
\[ E_n = \sum_{j=0}^{n-1} \left\{ \sum_{k=0}^{n-1} \left( \sum_{l=0}^{n-1} p_{jkl}S_{jkl} \right) \right\} \]とおく。 $E_n$ を求めよ。また、 $\displaystyle \lim_{n\to\infty}E_n$ を求めよ。
考え方
問題文が長く、式の見た目もゴツいですが、円周上にできる三角形の面積の期待値を求める問題です。何を計算しようとしているかを把握するのは、そんなに難しくはありません。
考える三角形を3つに分解し、3つの $\sin$ を足し合わせる、というところまでは多くの人がたどり着けるでしょう。が、ここからの計算が大変です。 $\displaystyle \sum\sum\sum$ をなんとか簡単にしていきます。
式をどうやって変形しても、 $\displaystyle \sum k\sin\frac{2k\pi}{n}$ が残ってしまいます。しかも、この計算がまた大変です。「$\cos kx$ を微分して $k\sin kx$ を出してくる」と攻めるか、「等差数列×等比数列の和」と同じように攻めるか。どちらでも出せますが、なかなか思いつくのは大変です。
極限だけなら、区分求積法を使って出すことも可能ですが、極限をとる前の $E_n$ を出すのは相当難易度が高いです。突破すべきポイントが多く、最後までたどり着くのは至難の業です。
解答編
問題
n を2以上の整数とする。原点 O を中心とした半径1の円周を n 等分する点を時計回りに $\mathrm{ P }_0,\mathrm{ P }_1.\cdots \mathrm{ P }_{n-1}$ とする。これら n 点から無作為に1点を選ぶ試行を独立に3回繰り返し、3点 P, Q, R を順に選ぶ。ただし、P, Q, R は重複を許して選び、どの n 点も同じ確からしさで選ぶものとする。 $0 \leqq j,k,l \leqq n-1$ に対し、P, Q, R がそれぞれ $\mathrm{ P }_j,\mathrm{ P }_k,\mathrm{ P }_l$ である確率を $p_{jkl}$ とする。3点 $\mathrm{ P }_j,\mathrm{ P }_k,\mathrm{ P }_l$ が異なるとき、三角形 $\mathrm{ P }_j\mathrm{ P }_k\mathrm{ P }_l$ の面積を $S_{jkl}$ とおく。また、3点 $\mathrm{ P }_j,\mathrm{ P }_k,\mathrm{ P }_l$ に重複があるとき、 $S_{jkl}=0$ とおく。
\[ E_n = \sum_{j=0}^{n-1} \left\{ \sum_{k=0}^{n-1} \left( \sum_{l=0}^{n-1} p_{jkl}S_{jkl} \right) \right\} \]とおく。 $E_n$ を求めよ。また、 $\displaystyle \lim_{n\to\infty}E_n$ を求めよ。
解答
P, Q, R が $\mathrm{ P }_m$ である確率はどれも $\displaystyle \frac{1}{n}$ なので、 $\displaystyle p_{jkl}=\frac{1}{n^3}$ である。また、3点を選んだあと、P が $\mathrm{ P }_0$ に来るように回転すれば、求める $E_n$ は、
\begin{eqnarray}
E_n
&=&
\sum_{j=0}^{n-1} \left\{ \sum_{k=0}^{n-1} \left( \sum_{l=0}^{n-1} p_{jkl}S_{jkl} \right) \right\} \\[5pt]
&=&
n\times \sum_{k=0}^{n-1} \left( \sum_{l=0}^{n-1} \frac{1}{n^3} S_{0kl} \right) \\[5pt]
&=&
\frac{1}{n^2} \sum_{k=0}^{n-1} \sum_{l=0}^{n-1} S_{0kl} \\[5pt]
\end{eqnarray}と書ける。
3点 $\mathrm{ P },\mathrm{ Q },\mathrm{ R }$ が異なるときを考えればよい。この3点が、反時計回りにこの順にあるとし、 $\angle\mathrm{ POQ }$, $\angle\mathrm{ QOR }$, $\angle\mathrm{ ROP }$ をそれぞれ、$\displaystyle \frac{2a\pi}{n}$, $\displaystyle \frac{2b\pi}{n}$, $\displaystyle \frac{2(n-a-b)\pi}{n}$ とする。ここで、それぞれの角は、0より大きく $2\pi$ より小さくできる。
三角形 $\mathrm{ PQR }$ を各頂点と原点で結ぶそれぞれの線で切る。
これにより、\[S_{0kl} = \frac{1}{2} \left( \sin\frac{2a\pi}{n} + \sin\frac{2b\pi}{n} + \sin\frac{2(n-a-b)\pi}{n} \right) \]と書けることがわかる。
なお、どれかの角度が $\pi$ より大きい場合も成り立つ(補足1)。
3点 $\mathrm{ P },\mathrm{ Q },\mathrm{ R }$ が異なるので、a は $1$ から $n-2$ まで動き、b は $1$ から $n-a-1$ まで動く。
3点 $\mathrm{ P },\mathrm{ Q },\mathrm{ R }$ が時計回りにあるときも同様に考えると、 $E_n$ は次のように変形できる。
\begin{eqnarray}
E_n
&=&
\frac{1}{n^2} \sum_{k=0}^{n-1} \sum_{l=0}^{n-1} S_{0kl} \\[5pt]
&=&
\frac{1}{n^2} \sum_{k=1}^{n-2} \sum_{l=1}^{n-k-1} \left( \sin\frac{2k\pi}{n} + \sin\frac{2l\pi}{n} + \sin\frac{2(n-k-l)\pi}{n} \right)
\end{eqnarray}
ここで、3項目は、l が $1$ から $n-k-1$ まで動くとき、 $n-k-l$ は $n-k-1$ から $1$ まで動くので
\begin{eqnarray}
& &
\sum_{k=1}^{n-2} \sum_{l=1}^{n-k-1} \sin\frac{2(n-k-l)\pi}{n} \\[5pt]
&=&
\sum_{k=1}^{n-2} \sum_{l=1}^{n-k-1} \sin\frac{2l\pi}{n} \\[5pt]
\end{eqnarray}となり、2項目と一致する。
さらに2項目は、
\begin{eqnarray}
& &
\sum_{k=1}^{n-2} \sum_{l=1}^{n-k-1} \sin\frac{2l\pi}{n} \\[5pt]
&=&
\sum_{l=1}^{n-2} \sum_{k=1}^{n-l-1} \sin\frac{2l\pi}{n} \\[5pt]
\end{eqnarray}となり、1項目と一致する(補足2)。
よって、 $E_n$ は、
\begin{eqnarray}
E_n
&=&
\frac{1}{n^2} \times 3 \times \sum_{k=1}^{n-2} \sum_{l=1}^{n-k-1} \sin\frac{2k\pi}{n} \\[5pt]
&=&
\frac{3}{n^2} \sum_{k=1}^{n-2} (n-k-1) \sin\frac{2k\pi}{n} \\[5pt]
&=&
\frac{3}{n^2} \sum_{k=1}^{n-2} k \sin\frac{2(n-k-1)\pi}{n} \\[5pt]
&=&
-\frac{3}{n^2} \sum_{k=1}^{n-2} k \sin\frac{2(k+1)\pi}{n} \\[5pt]
&=&
-\frac{3}{n^2} \sum_{k=2}^{n-1} (k-1) \sin\frac{2k\pi}{n} \\[5pt]
\end{eqnarray}と変形できる。
ここで、 $\displaystyle \alpha = \cos\frac{2\pi}{n}+i\sin\frac{2\pi}{n}$ とすると、\[ 1+\alpha +\alpha^2 +\cdots + \alpha^{n-1} = 0 \]であり、両辺の虚部を比較すると $\displaystyle \sum_{k=1}^{n-1} \sin\frac{2k\pi}{n}=0$ となる。つまり、\[ \displaystyle \sum_{k=2}^{n-1} \sin\frac{2k\pi}{n} = -\sin\frac{2\pi}{n} \]が成り立つ。よって、 $E_n$ は次のように変形できる。
\begin{eqnarray}
E_n
&=&
-\frac{3}{n^2} \sum_{k=2}^{n-1} (k-1) \sin\frac{2k\pi}{n} \\[5pt]
&=&
-\frac{3}{n^2}
\left\{
\sum_{k=2}^{n-1} k \sin\frac{2k\pi}{n}
-\sum_{k=2}^{n-1} \sin\frac{2k\pi}{n}
\right\} \\[5pt]
&=&
-\frac{3}{n^2}
\left\{
\sum_{k=2}^{n-1} k \sin\frac{2k\pi}{n}
+\sin\frac{2\pi}{n}
\right\} \\[5pt]
&=&
-\frac{3}{n^2} \sum_{k=1}^{n-1} k \sin\frac{2k\pi}{n} \\[5pt]
\end{eqnarray}
また、 $\displaystyle \beta = \cos x+i\sin x$ とすると、\[ 1+\beta +\beta^2 +\cdots + \beta^{n-1} = \frac{1-\beta^n}{1-\beta} \]であり、両辺の実部は等しい。
左辺の実部は、 $\displaystyle \sum_{k=0}^{n-1} \cos kx$ なので、これをxで微分して $\displaystyle x=\frac{2\pi}{n}$ を代入し、 $-1$ を掛けると、 $\displaystyle \sum_{k=1}^{n-1} k \sin\frac{2k\pi}{n}$ が得られる。
右辺は
\begin{eqnarray}
\frac{1-\cos nx+i\sin nx}{1-\cos x+i\sin x}
&=&
\frac{(1-\cos nx+i\sin nx)(1-\cos x-i\sin x)}{(1-\cos x)^2+(\sin x)^2}
\end{eqnarray}なので、実部は\[ \frac{(1-\cos nx)(1-\cos x)+\sin nx\sin x}{2-2\cos x} \]と書ける。これを微分し、 $\displaystyle x=\frac{2\pi}{n}$ を代入した値を考える。
この式で、 $\displaystyle x=\frac{2\pi}{n}$ としたとき、分子は0になる。また、分子を微分して $\displaystyle x=\frac{2\pi}{n}$ としたとき、 $\displaystyle n\sin\frac{2\pi}{n}$ となる(補足3)。よって、
\begin{eqnarray}
& &
\sum_{k=1}^{n-1} k \sin\frac{2k\pi}{n} \\
&=&
\frac{-n\sin\frac{2\pi}{n} }{2-2\cos \frac{2\pi}{n} }
\end{eqnarray}となる。
よって、
\begin{eqnarray}
E_n
&=&
-\frac{3}{n^2} \sum_{k=1}^{n-1} k \sin\frac{2k\pi}{n} \\[5pt]
&=&
-\frac{3}{n^2} \cdot \frac{-n\sin\frac{2\pi}{n} }{2-2\cos \frac{2\pi}{n} } \\[5pt]
&=&
\frac{3}{n} \cdot \frac{2\sin\frac{\pi}{n}\cos\frac{\pi}{n} }{4\sin^2 \frac{\pi}{n} } \\[5pt]
&=&
\frac{3\cos\frac{\pi}{n} }{2n\sin \frac{\pi}{n} } \\[5pt]
\end{eqnarray}となる。
また、極限は、
\begin{eqnarray}
\lim_{n\to\infty}E_n
&=&
\lim_{n\to\infty}\frac{3\cos\frac{\pi}{n} }{2n\sin \frac{\pi}{n} } \\[5pt]
&=&
\lim_{n\to\infty} 3\cos\frac{\pi}{n} \cdot \frac{\frac{\pi}{n} }{2\sin \frac{\pi}{n} } \cdot \frac{1}{\pi} \\[5pt]
&=&
\frac{3}{2\pi} \\[5pt]
\end{eqnarray}となる。
(解答終)
解説
3つの $\sum$ を計算しやすい形に持って行くところが難しいですね。そこが解決しても、 $\displaystyle \sum_{k=1}^{n-1} k \sin\frac{2k\pi}{n}$ がまた難しいです。
上では微分を使いましたが、「等差数列×等比数列の和」と同じように考えて出す方法もあります。 $\displaystyle \alpha = \cos\frac{2\pi}{n}+i\sin\frac{2\pi}{n}$ として、\[ \alpha +2\alpha^2 +\cdots + (n-1)\alpha^{n-1} \]を考え、これを $S$ と置きます。この式に $\alpha$ を掛けて辺々を引きます。すると、 $S(1-\alpha)$ と\[ \alpha +\alpha^2 +\cdots + \alpha^{n-1}-(n-1)=-n \]が一致することがわかるので、 $S$ が出てきます。あとは、元の式で虚部を比較すればいいですね。
以下は、解答中にあった、補足のまとめです。
<補足1>
次のような場合を気にしています。
このとき、中心角が $\pi$ を超えたものは三角形の面積を引く必要がありますが、自動的に $\sin$ の符号がマイナスになるので、この場合でも\[ \sin\frac{2a\pi}{n} + \sin\frac{2b\pi}{n} + \sin\frac{2(n-a-b)\pi}{n} \]の式が使える、ということです。
<補足2>
$\displaystyle \sum_{k=1}^{n-2} \sum_{l=1}^{n-k-1} \sin\frac{2l\pi}{n}$ は、次の範囲内にある格子点について $\sin\frac{2l\pi}{n}$ を足すということです。
この切り口を、k から切るのではなく、l から切るようにすれば、 $\displaystyle \sum_{l=1}^{n-2} \sum_{k=1}^{n-l-1} \sin\frac{2l\pi}{n}$ となることがわかります。
<補足3>
\[ \frac{(1-\cos nx)(1-\cos x)+\sin nx\sin x}{2-2\cos x} \]を微分し、 $\displaystyle x=\frac{2\pi}{n}$ を代入した値を考えるのですが、しなくてもいい計算を省いています。
$\displaystyle \frac{f}{g}$ の微分は $\displaystyle \frac{f'g-fg'}{g^2}$ ですが、今 f にあたる部分に $\displaystyle x=\frac{2\pi}{n}$ を代入すると消えるので、 $\displaystyle \frac{f'g}{g^2}=\frac{f'}{g}$ を計算すればいいことがわかります。さらに、 $f'$ も $\sin nx\sin x$ を微分したところしか残りません。
全部を微分する必要はないので、不要な計算を飛ばしています。