【標準】恒等式と分数式
ここでは、分数式を含んだ等式が恒等式になる条件を求める問題を考えます。
分数式の恒等式と係数比較
【標準】部分分数分解をしてから分数式を足すで見たように、部分分数に分解する式変形ですね。
まずは、係数比較法で解いてみましょう(参考:【基本】恒等式と係数比較)。
恒等式なら、両辺に同じ式を掛けても恒等式です。分母が消えるように $(x-1)x(x+1)$ を掛けてみましょう。すると、左辺は $1$ となり、右辺は次のようになります。
\begin{eqnarray}
& &
ax(x+1) +b(x-1)(x+1) +c(x-1)x \\[5pt]
&=&
ax^2+ax +bx^2-b +cx^2-cx \\[5pt]
&=&
(a+b+c)x^2 +(a-c)x -b \\[5pt]
\end{eqnarray}整式の恒等式は、両辺の係数が等しくなります(参考:【標準】部分分数分解をしてから分数式を足す)。なので、定数項を比較して、 $-b=1$ 、つまり、 $b=-1$ が得られます。また、 $a-c=0$ と $a+b+c=0$ から、 $a=c=\dfrac{1}{2}$ が得られます。
こうして得られた値をもとの式に代入すれば、両辺から同じ分数式が得られるため、もとの式は恒等式となります。よって、これらが答えとなります。
分数式の恒等式と数値代入
同じ問題を、【基本】恒等式と数値代入で見た、数値代入法で解いてみましょう。
先ほどと同じように、両辺に $(x-1)x(x+1)$ を掛けます。こうして得られる式\[ 1=ax(x+1) +b(x-1)(x+1) +c(x-1)x \]も恒等式になります。
この式に、 $x=0$ を代入すると $1=-b$ が得られ、 $b=-1$ となります。また、 $x=1$ とすると $1=2a$ となり、 $x=-1$ とすると $1=2c$ が得られるため、 $a=c=\dfrac{1}{2}$ となります。
先ほどと同じ結果が得られましたが、数値代入法の場合は、これで終わりではいけないんでしたね。いくつかの値を代入しただけなので、すべての値で成り立つことを確認しなければいけません。
元の式の右辺にこれらの値を代入すると
\begin{eqnarray}
& &
\frac{1}{2(x-1)} +\frac{-1}{x} +\frac{1}{2(x+1)} \\[5pt]
&=&
\frac{x(x+1)-2(x-1)(x+1)+(x-1)x}{2(x-1)x(x+1)} \\[5pt]
&=&
\frac{x^2+x-2(x^2-1)+x^2-x}{2(x-1)x(x+1)} \\[5pt]
&=&
\frac{2}{2(x-1)x(x+1)} \\[5pt]
&=&
\frac{1}{(x-1)x(x+1)} \\[5pt]
\end{eqnarray}となり、左辺と一致します。両辺は同じ式なので、確かに恒等式となります。よって、上で得られた値が答えとなります。
この解き方は正しい解き方ですが、少し変に感じる人もいるかもしれません。というのも、 $x=-1,0,1$ を代入しましたが、これらの値はそもそも元の式に代入できる値ではないからです。分母が $0$ になってしまいます。
しかし、これは問題ありません。代入する先は、 $(x-1)x(x+1)$ を掛けたあとの式であり、普通の整式です。整式にはどんな値でも代入できます。数値代入によって得られた恒等式は、 $x=-1,0,1$ 以外なら、 $(x-1)x(x+1)$ で割ることも可能で、このようにして得られる分数式も $x=-1,0,1$ 以外なら等式が成り立つので、恒等式になります。
分数式の恒等式と式変形
なお、今の問題で、値を求めるだけであれば、次のようにすることも可能です。
\begin{eqnarray}
& &
\frac{1}{(x-1)x(x+1)} \\[5pt]
&=&
\frac{1}{2} \left(\frac{1}{(x-1)x}-\frac{1}{x(x+1)}\right) \\[5pt]
&=&
\frac{1}{2} \left\{ \left(\frac{1}{x-1}-\frac{1}{x}\right) -\left(\frac{1}{x}-\frac{1}{x+1}\right) \right\} \\[5pt]
&=&
\frac{1}{2} \left( \frac{1}{x-1}-\frac{2}{x} +\frac{1}{x+1} \right) \\[5pt]
&=&
\frac{1}{2(x-1)}+\frac{-1}{x} +\frac{1}{2(x+1)} \\[5pt]
\end{eqnarray}これから、 $a=c=\dfrac{1}{2}$, $b=-1$ が得られます。
しかし、上の問題の解答としては、この解き方は不十分です。「他の答えがない」ことが示せていないからです。これを示すためには、1つ目の解き方のように、「整式の恒等式は係数が等しい」ということを用いるか、2つ目の解き方のように、はじめから「恒等式になるならこの値しかない」と制限するしかありません。
この式変形は、恒等式の係数を求める問題には適していませんが、部分分数に分けたいときに使うことはあります。
おわりに
ここでは、分数式の恒等式を見ました。恒等式の両辺に同じものを掛けても恒等式になるので、分母が消えるように式を変えてから考えます。係数比較でも、数値代入でも、どちらでも解くことができます。