【標準】絶対値と不等式の証明
ここでは、絶対値を使った不等式の証明問題を考えます。絶対値が複数あって場合分けが面倒な場合などで、どう対処すればいいかを考えます。
絶対値と不等式の関係について
例えば、次のような不等式を考えてみましょう。\[ |a|+|b| \geqq |a+b| \]【基本】絶対値と不等式の証明と同じように場合分けをして考えることもできるかもしれませんが、絶対値が3つもあり、場合分けはかなり複雑です。
このようなときには、場合分けで頑張るのはいいアイデアではありません。こういった場合に使える道具をここで紹介しておきましょう。
まず、絶対値の定義はこうでしたね。
\begin{eqnarray}
| a |
=
\begin{cases}
a & ( a \geqq 0 ) \\
-a & ( a \lt 0 )
\end{cases}
\end{eqnarray}ゼロ以上ならそのまま、負ならマイナスをつける。これから、まず\[ |a|\geqq 0 \]がわかります。基本的ですが、大事な性質です。
また、次の二つの不等式が成り立つこともわかるでしょう。\[ |a|\geqq a,\ |a|\geqq -a \]右辺がゼロ以上なら等号が成り立ち、右辺が負のときは $\gt$ が成り立ちます。
不等式ではありませんが、次の式も重要です。\[ |a|^2=a^2 \]これは、「場合分けをしなくても、2乗すれば絶対値の記号をとることができる」という意味で、とても重要です。【基本】正の数の2乗と不等式の証明で見たように、両辺が正(またはゼロ以上)の不等式を示す場合に、両辺を2乗したもの同士を示してもいいんでしたね。上でも書きましたが、絶対値はゼロ以上なので、このことと組み合わせて使えるところは多そうです。
今後、絶対値が入った不等式の両辺を2乗することがあるので、そのときに出てくる基本的な計算も見ておきましょう。 $|a| \times |b|$ がどうなるか考えてみましょう。これを2乗すると\[ (|a| \times |b|)^2=|a|^2|b|^2=a^2b^2 \]です。一方で、\[ |ab|^2=(ab)^2=a^2b^2 \]も成り立ちます。 $|a| \times |b|$ も $|ab|$ もゼロ以上で、2乗した値が等しいので、\[ |a| \times |b|= |ab| \]が成り立つことがわかります。また、割り算も同じようにすると\[ \frac{|a|}{|b|} = \left| \frac{a}{b} \right| \]が成り立つことがわかります。
これらを踏まえて、場合分けの多い、絶対値の入った不等式を考えてみましょう。
絶対値を使った不等式の証明
場合分けで攻めるのは大変です。両辺がゼロ以上なので、2乗したもの同士を比較して考えましょう。
左辺の2乗から右辺の2乗を引くと
\begin{eqnarray}
& &
(|a|+|b|)^2 -|a+b|^2 \\
&=&
|a|^2+2|a||b|+|b|^2 -(a+b)^2 \\
&=&
a^2+2|ab|+b^2 -(a^2+2ab+b^2) \\
&=&
2(|ab|-ab) \\
&\geqq&
0
\end{eqnarray}となります。 $|x|^2=x^2$ であることを、1つ目・2つ目の等号で使っています。 $|x||y|=|xy|$ を2つ目の等号で使っています。また、 $|x|\geqq x$ を最後の不等式で使っています。この記事の前半で示したことをいろいろ使っています。
上の式変形と、もとの不等式の両辺がゼロ以上であることから、\[ |a|+|b| \geqq |a+b| \]が成り立つことがわかります。また、等号は、上の式変形から $|ab|=ab$ となるときなので、 $ab\geqq 0$ のときであることがわかります。
派生して得られる不等式
ところで、上で示した不等式\[ |a|+|b| \geqq |a+b| \]は $a,b$ がどんなものでも成り立つので、これからいろいろな不等式を生み出すことができます。
まず、 $b$ を $-b$ としてみましょう。代入すると\[ |a|+|b| \geqq |a-b| \]が成り立つことがわかります。左辺は $|-b|=|b|$ であることを使っています。
また、 $a$ に $a+b$ を入れ、 $b$ に $-b$ を入れてみましょう。そうすると\[ |a+b|+|-b| \geqq |a+b-b| \]となります。式を整理すると\[ |a+b| \geqq |a|-|b| \]が得られます。
最後に、 $a$ に $a+b$ を入れ、 $b$ に $c$ を入れてみます。\[ |a+b|+|c| \geqq |a+b+c| \]さらに、はじめの不等式を合わせると\[ |a|+|b|+|c| \geqq |a+b+c| \]が得られます。
こうして、1つの不等式からいろんな不等式が成り立つことがわかります。
こうしたテクニックは、問題の(1)で示した結果を使って(2)を示す、というときに使うことがあります。
おわりに
ここでは、絶対値の入った不等式をみました。場合分けをせずに、2乗して考える方法はよく使うので、場合分けが難しそうなときに使うようにしましょう。