【応用】実数の2乗と不等式の証明
ここでは、実数の2乗を使った、不等式の証明問題を見ていきます。2乗でない部分の扱いに関するテクニックを見ていきます。
コーシー・シュワルツの不等式
不等式の証明問題は、まず左辺から右辺を引いてみる、というのが基本です。実際に引いてみると
\begin{eqnarray}
& &
(a^2+b^2)(c^2+d^2)-(ac+bd)^2 \\[5pt]
&=&
a^2c^2 +a^2d^2 +b^2c^2+b^2d^2 \\
& & -(a^2c^2+2abcd+b^2d^2) \\[5pt]
&=&
a^2d^2 +b^2c^2 -2abcd \\[5pt]
\end{eqnarray}となります。 $a^2d^2$ と $b^2c^2$ はゼロ以上だとわかりますが、 $-2abcd$ の部分が邪魔ですね。こういう場合は、何かの2乗の形に変形できないかを考えてみましょう。【標準】実数の2乗と不等式の証明でも、平方完成をして、2乗の形を作り出していましたね。
今の場合、きれいに因数分解することができて
\begin{eqnarray}
& &
a^2d^2 +b^2c^2 -2abcd \\[5pt]
&=&
(ad-bc)^2 \\[5pt]
&\geqq&
0
\end{eqnarray}となります。これから、元の不等式の左辺が右辺以上になることが示せました。
また、等号が成立するのは、最後の不等式で $(ad-bc)^2=0$ が成り立つときですね。つまり、 $ad=bc$ のときであることがわかります。
この不等式は「コーシー・シュワルツの不等式」と呼ばれています。数学のいろんなところで出てくるもので、高校数学でもベクトルや積分のところで、再び出会うことになるでしょう。
2で割るテクニック
続いて、次の不等式を考えてみましょう。
先ほどと同じように左辺から右辺を引くという方針は同じですが、そこからどう変形すればいいでしょうか。 $-ab,-bc,-ca$ の3つが邪魔です。これらを2乗の形に持っていきたいですが、なかなかうまくいきません。
例えば、 $-ab$ をなんとかして2乗の形に持っていくとしたら $(a-b)^2$ を使うのが自然な発想です。しかし、これで出てくるのは $-ab$ ではなく、 $-2ab$ です。しかも、 $a^2$, $b^2$ が出てきてしまうので、 $-bc$ や $-ca$ を2乗の形に変形するときに、 $a^2$, $b^2$ が使えません。
これらを一気に解決するテクニックとして、「2で割って"2倍"を出してくる」というものがあります。つまり、\[ \frac{1}{2}(2a^2+2b^2+2c^2 -2ab-2bc-2ca ) \]と変形する、ということです。こうすると、 $-2ab$ が出てくるので、 $(a-b)^2$ が使えそうです。さらに、 $2a^2$, $2b^2$ があるので、もう1回 $a^2$, $b^2$ を使うことができます。こうして、 $-2bc$, $-2ca$ も消すことができるようになります。
ここまでのことを踏まえて、式を書いてみましょう。与えられた不等式の左辺から右辺を引いたものは、次のように変形できます。
\begin{eqnarray}
& &
(a^2+b^2+c^2)-(ab+bc+ca) \\[5pt]
&=&
\frac{1}{2}(2a^2+2b^2+2c^2-2ab-2bc-2ca) \\[5pt]
&=&
\frac{1}{2}(a^2-2ab+b^2 +b^2-2bc+c^2 +c^2-2ca+a^2) \\[5pt]
&=&
\frac{1}{2}\{ (a-b)^2+(b-c)^2+(c-a)^2 \} \\[5pt]
&\geqq&
0
\end{eqnarray}2乗の和になっているので、ゼロ以上であることが示せる、ということですね。
等号が成り立つのは、最後の不等式の等号が成り立つときなので、 $(a-b)^2$, $(b-c)^2$, $(c-a)^2$ がすべてゼロの場合、つまり、 $a=b=c$ のときであることがわかります。
何もないところから2を作り出す、というのは、知っていないと思いつくのが難しいですね。
おわりに
ここでは、実数の2乗を使った不等式の問題を見ました。2で割って2倍を出してくる、というテクニックは、不等式の問題に限らず突然出てくるので、出てくるたびに慣れていくようにしましょう。