【発展】恒等式の係数決定と必要条件・十分条件

ここでは、恒等式の係数(定数)を求める問題における、必要条件と十分条件について、見ていきます。

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恒等式の係数決定問題の2つの解き方

「恒等式になるように、定数を求めなさい」という問題は、両辺の係数を比較する係数比較法と、いくつかの数値を代入して得られた条件から求める数値代入法の、2つの解き方がありました。それぞれ、【基本】恒等式と係数比較【基本】恒等式と数値代入で見た方法です。

2つの解き方がありますが、数値代入法は最後にひと手間が必要でした。実際に求めた値が、条件を満たすか確認をしていました。このことについて、少し考えてみましょう。

数値代入法と必要条件・十分条件

「恒等式になるように、定数を求めなさい」と問われれば、「この値のときは恒等式になる」こと、そして、「この値以外は恒等式にならない」こと、この2つを解答に盛り込まなくてはいけません。これは、恒等式の問題に限らず、どんな問題でもそうです。必要なことを含め、不要なことを含んではいけません。

数値代入法というのは、「恒等式なら、好きな値を入れても等式が成り立つ」ことを利用して解いていきます。なので、こうして得られた条件(定数の値)は、「この値以外は恒等式にならない」ことは保証されます。恒等式だったら必ず成り立つ条件、つまり、必要条件が得られていることになります。

しかし、その条件を満たしていたら、恒等式なのかどうかはわかりません。恒等式になる条件として十分なのか、つまり、十分条件であることは保証されていません。なので、「得られた値を元の式に代入してみたら、両辺が一致するので、確かに求めた値は恒等式になる」という確認をしなくてはいけません。

数値代入法は、必要条件を先に求め、後で十分条件でもあることをチェックしている、と言えます。

係数比較法と必要条件・十分条件

一方、係数比較法はどうでしょうか。

係数比較法は、両辺の係数を比較して条件を求めます。両辺が同じ形の式なら、恒等式になるのは当たり前です。なので、「この値のときは恒等式になる」ことは保証されます。

しかし、厳密にいうと、「この値以外は恒等式にならない」ことは保証されていません。両辺が同じ形の式でなくても、恒等式になることがあるかもしれないからです。例えば、\[ |-x|=|x| \]は、両辺は同じ形ではないですが、どんな値でも成り立つので恒等式です。

係数比較法は、十分条件を求めていますが、必要条件については特に言及していませんでした。これは、必要条件について考えなくてよいということではなく、大前提として以下の事実を使っているのです。

恒等式の係数比較
ある整式が恒等的に0なら、その整式の係数はすべて0である。
また、2つの整式が恒等的に等しいなら、その2つの整式の同じ次数の項の係数は、それぞれ等しい。

これは、【基本】恒等式と係数比較で書いたものです。証明は二次のときにしかしていませんが、三次や四次でも、 $x=\pm2,\pm1,0$ などを入れて連立方程式を解けば示すことはできます。また、証明はしていませんが、何次の整式であっても、上の事実は成り立ちます。

この事実は、試験や入試で使っても構いません。「整式の恒等式⇒係数比較ができる」という流れで減点されることはありません。

【標準】恒等式と分数式#分数式の恒等式と式変形では、分数式の恒等式を求めるときに、式変形をして係数比較のように解こうとしたものの、「この解き方はダメだ」という結論を書きました。これは、分数式の各項を比較して係数を求めても、他に答えがないことを保証できない、つまり、必要性の確認ができないことに起因しています。

分数式を使った恒等式の問題で、分母が消えるように式を掛けたのは、整式にするためです。整式に変形しなければ、上の事実を使うことができないんですね。

数値代入法と十分条件

上で書いたように、整式の場合、係数比較法では、必要性の確認を省略できる(前提として使える)んでしたね。実は、数値代入法の場合も、整式の場合は、十分性の確認を省略することができます。

それには、次の事実を使います。

n次方程式の実数解の個数
n 次方程式の実数解は、高々 n 個である。

これを使えば、 n 次式 $f(x),g(x)$ があって、 $n+1$ 個の実数に対して $f(x)=g(x)$ が成り立つなら、この等式は恒等式になっていることがわかります。もし $f(x)-g(x)$ が恒等的に $0$ でないなら、 n 次以下の方程式の実数解が $n+1$ 個あることになり、上の事実に反するからです。

上の事実も、一般的な整式に対して高校数学の範囲で示すことは困難です。しかし、これを証明なしで使っても、試験や入試で減点されることはないでしょう。

具体的に、数値代入法で上の事実を使うとどうなるかを書いてみます。まず、 n 次式に、 $n+1$ 個の値を代入し、連立方程式を解いて定数を求めます。次に、(いつもなら、ここで求めた値を元の式に代入しますが)「両辺は高々 n 次の整式であり、異なる $n+1$ 個の値について等式が成り立つので、このとき、等式は恒等式になる」(n は具体的な数を書く)と書けば終わりです。これが十分性の確認になっています。

なお、代入して確認する手間は省けますが、きちんと書かないと減点になります。

おわりに

ここでは、恒等式の係数を求める問題で使える2つの方法、係数比較法と数値代入法に対して、十分性と必要性について考えました。十分性と必要性については少し難しいですが、いい機会なので、よく考えてみましょう。